退職金2,000万円を「一括で受け取る」か「年金形式で受け取る」か。この選択ひとつで、手取り額に最大380万円の差が生まれる。

税金対策というと難しく感じるが、退職金の場合は「受け取り方」と「タイミング」を変えるだけで結果が大きく変わる。

退職金にかかる税金の仕組みはどうなっていますか?

退職金は退職所得として、他の所得と分離して課税される。

退職所得とは、退職により勤務先から受け取る一時金に対して課される所得区分のことだ。給与所得や事業所得とは別に計算され、税率が適用される。

計算式は以下のとおり。

(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得金額

この「1/2」が退職金の税金が安い最大の理由だ。課税対象が半分になるため、同じ金額の給与所得と比べて税負担が大幅に軽くなる。

退職金2,000万円の税額シミュレーション(勤続年数別)

勤続年数退職所得控除課税退職所得税額概算手取り
20年800万円600万円約122万円約1,878万円
25年1,150万円425万円約74万円約1,926万円
30年1,500万円250万円約27万円約1,973万円
35年1,850万円75万円約11万円約1,989万円
38年2,060万円0円0円2,000万円

勤続38年以上なら退職所得控除が2,060万円となり、2,000万円の退職金は全額非課税。手取りは額面どおり2,000万円だ。

ここまでで分かったこと
  • 退職所得は控除後の1/2に課税。給与所得より大幅に税負担が軽い
  • 勤続38年以上なら退職金2,000万円は全額非課税

対策1|一括受取と年金受取、どちらが得ですか?

最も手取りに影響するのが受け取り方の選択だ。

退職金2,000万円の受取方法別シミュレーション(勤続30年)

受取方法課税区分15年間の税額合計15年間の手取り合計
一括受取退職所得約27万円約1,973万円
年金受取(15年・年133万円)雑所得約157万円約1,843万円
一括1,500万円+年金500万円退職所得+雑所得約38万円約1,962万円

一括受取の手取りは約1,973万円、年金受取は約1,843万円。差額は約130万円。年金受取は毎年の雑所得として総合課税されるため、他の所得と合算されて税率が上がる。

ただし退職後の所得がほとんどない場合(年金収入のみ等)、年金受取でも税額が低く抑えられるケースがある。公的年金等控除を活用できるためだ。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職後の収入が公的年金のみ(年180万円以下)の場合、退職金の年金受取分に対する実効税率は5〜8%に収まる。一方、退職後も再就職して年収300万円以上ある場合、年金受取分の実効税率は15〜20%に跳ね上がる。

結論: 退職後に再就職するなら一括受取。退職後は公的年金のみなら、一括+年金の併用を検討する。

ここまでで分かったこと
  • 一括受取は退職所得(1/2課税)、年金受取は雑所得(総合課税)
  • 退職後の収入が多い人ほど一括受取が有利

対策2|退職所得控除を最大化する方法は?

退職所得控除の金額は勤続年数で決まる。1年でも長く勤務すれば控除額は増える。

退職所得控除の計算式

勤続年数控除額の計算
20年以下40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

ポイントは、20年超の部分は1年あたり70万円ずつ増えることだ。

Aさん(58歳・製造業・勤続34年11ヶ月)の場合、あと1ヶ月勤務すれば勤続35年にカウントされ、控除額は1,780万円から1,850万円へ70万円増える。退職金2,000万円なら、税額は約24万円から約11万円に下がる。1ヶ月の在籍で13万円の資産防衛効果だ。

勤続年数は1年未満の端数を切り上げて計算する。勤続20年1ヶ月は「21年」扱いだ。退職日を調整するだけで控除額が70万円変わる可能性がある。

ここまでで分かったこと
  • 勤続年数の端数は切り上げ。1ヶ月の差で控除額が70万円変わる
  • 退職日の調整は最も簡単な資産防衛策

対策3|iDeCoの「5年ルール」とは何ですか?

iDeCoの一時金と退職金は、どちらも退職所得として扱われる。問題は退職所得控除の計算方法だ。

退職金とiDeCoの一時金を同じ年に受け取ると、退職所得控除は勤続年数とiDeCo加入年数の「長い方」しか使えない。つまり控除額の二重取りはできない。

しかし退職金を先に受け取り、5年以上あけてからiDeCoを一時金で受け取ると、退職所得控除をそれぞれ別枠で利用できる。これが「5年ルール」だ。

5年ルールの効果シミュレーション

受取パターン退職所得控除の利用税額概算
同時受取(退職金2,000万+iDeCo 500万)勤続30年分のみ(1,500万円)約127万円
退職金を先に受取→5年後にiDeCo受取勤続30年分(1,500万円)+iDeCo加入20年分(800万円)約27万円

同時受取なら税額約127万円。5年ルールを活用すれば約27万円。差額は約100万円だ。

Bさん(60歳・IT企業・退職金2,000万円・iDeCo加入20年・残高500万円)は、60歳で退職金を受け取り、65歳でiDeCoを一時金で受け取る計画を立てた。5年以上の間隔を空けることで、退職所得控除を2回使えるようになる。

ここまでで分かったこと
  • 退職金とiDeCoの受取を5年以上あけると控除を2回使える
  • 5年ルールの活用で税額が約100万円減るケースも

対策4|退職金にかかる住民税の注意点は?

退職所得に対する住民税は、所得税と同様に分離課税で計算される。税率は一律10%(都道府県民税4%+市町村民税6%)だ。

見落としやすいのが退職翌年の住民税だ。住民税は前年の所得に対して翌年6月から課税される。退職金は分離課税で退職時に天引きされるが、退職年の給与所得に対する住民税は翌年に請求される。

Cさん(59歳・商社・退職金2,500万円・年収800万円)は、退職翌年の6月に住民税の通知書を受け取って驚いた。退職年の給与所得(1〜退職月分)に対する住民税が約25万円、一括で請求されていたからだ。

退職翌年の住民税支払いに備えて、退職金のうち50〜100万円は住民税用に確保しておくべきだ。

ここまでで分かったこと
  • 退職所得の住民税は退職時に天引き済み
  • 退職年の給与所得に対する住民税は翌年に請求される。事前に確保する

対策5|確定申告で取り戻せる税金はありますか?

「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出済みなら、退職金の税金は源泉徴収で完結する。確定申告は原則不要だ。

ただし以下のケースでは、確定申告で税金が戻る。

1. 退職年に多額の医療費がかかった場合 医療費控除の適用で所得税が還付される。退職金は分離課税だが、給与所得分の所得税が減る。

2. 退職年にふるさと納税をした場合 ワンストップ特例が使えるのは確定申告が不要な人のみ。退職年に確定申告する場合は、ふるさと納税分も含めて申告する必要がある。

3. 退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合 申告書未提出だと、退職金全額に対して20.42%が源泉徴収される。退職金2,000万円なら約408万円が天引きされる。確定申告すれば適正額との差額が還付される。

申告書提出の有無による税額の違い(退職金2,000万円・勤続30年)

申告書の提出源泉徴収額適正税額還付額
提出済み約27万円約27万円0円
未提出約408万円約27万円約381万円

申告書を出し忘れた場合でも、確定申告すれば約381万円が戻る。退職後5年以内なら還付申告が可能だ。

ここまでで分かったこと
  • 申告書未提出だと退職金に20.42%の源泉徴収。必ず提出する
  • 出し忘れても確定申告で還付可能(5年以内)

まとめ

退職金の税金対策は5つに集約される。

  1. 受取方法の選択: 一括が基本。退職後の収入が少なければ併用も検討
  2. 退職所得控除の最大化: 勤続年数の端数切り上げを意識した退職日設定
  3. iDeCo 5年ルール: 退職金とiDeCoの受取を5年以上あける
  4. 住民税の事前確保: 退職翌年の住民税支払いに備える
  5. 確定申告による還付: 申告書未提出・医療費控除・ふるさと納税

最も効果が大きいのは対策1の受取方法と対策3の5年ルール。この2つを組み合わせるだけで、手取りが100万〜380万円変わる。退職金は「もらい方」で手取りが決まる。