役員が在任中に死亡した場合、遺族に支給できるのは退職金だけではない。弔慰金を別枠で支給すれば、遺族の手取りを大きく増やせる。

ただし弔慰金には「非課税限度額」があり、超えた部分は退職手当金として相続税がかかる。この線引きを正しく理解しておくことが重要だ。

弔慰金の非課税限度額は月額報酬×36ヶ月

弔慰金の非課税限度額は、死亡の原因によって異なる。根拠は相続税法基本通達3-20だ。

弔慰金の非課税限度額

死亡の原因非課税限度額月額報酬100万円の場合
業務上の死亡最終月額報酬 × 36ヶ月3,600万円
業務外の死亡最終月額報酬 × 6ヶ月600万円

業務上の死亡とは、労災認定される死亡や、出張中の事故死などが該当する。過労死が労災認定された場合も業務上死亡として扱われる。

業務外の死亡は、病気による自然死やプライベートでの事故死など。実務上は大半がこちらに該当する。

非課税限度額を超えて弔慰金を支給した場合、超過分は「退職手当金等」とみなされる。つまり弔慰金という名目であっても、実質は退職金として相続税の課税対象になる。

業務上死亡と業務外死亡で限度額が6倍違う

業務上死亡の限度額は36ヶ月分、業務外死亡は6ヶ月分。その差は6倍だ。

月額報酬100万円の社長が死亡した場合の比較を見てみよう。

業務上・業務外死亡の弔慰金比較(月額報酬100万円)

項目業務上死亡業務外死亡
弔慰金の非課税限度額3,600万円600万円
退職金(功績倍率3.0・在任20年)6,000万円6,000万円
遺族が非課税で受け取れる合計9,600万円6,600万円

業務上死亡の判定は、最終的には労災認定の有無で判断されることが多い。ただし、労災認定がなくても「業務に起因する」と合理的に説明できる場合は、業務上死亡として弔慰金を支給し、損金算入が認められたケースもある。

判断に迷う場合は、税理士と労務士の双方に相談すべきだ。

ここまでで分かったこと
  • 業務上死亡は月額報酬×36ヶ月、業務外死亡は×6ヶ月が非課税上限
  • 超過分は退職手当金等として相続税の課税対象

弔慰金は退職金とは別に損金算入できる

弔慰金は退職金とは法的に異なる支給だ。したがって、法人側では退職金とは別に損金算入できる。

退職金の損金算入は法人税法第36条、弔慰金の損金算入は法人税法第22条第3項(一般的な費用・損失)が根拠だ。弔慰金は福利厚生費として処理するのが一般的である。

具体例で考えてみよう。月額報酬100万円、在任20年の社長が業務外で死亡した場合。

退職金と弔慰金の損金算入(業務外死亡の例)

項目金額損金算入の可否
死亡退職金(功績倍率3.0)6,000万円適正額の範囲内なら全額損金
弔慰金(月額報酬×6ヶ月)600万円非課税限度額内なら全額損金
合計6,600万円—

退職金6,000万円と弔慰金600万円、合計6,600万円を損金算入できる。法人税率を約23%とすると、約1,518万円の法人税負担が軽減される計算だ。

ただし注意点がある。弔慰金の金額が社会通念上妥当な範囲を超えていると判断された場合は、超過部分が損金不算入となる可能性がある。非課税限度額の範囲内で支給するのが最も安全だ。

弔慰金規程の作り方と盛り込むべき条項

弔慰金を確実に損金算入し、遺族が非課税で受け取るためには、弔慰金規程を事前に整備しておくことが重要だ。

弔慰金規程に盛り込むべき条項は以下のとおり。

  1. 支給対象者: 取締役、監査役、執行役員など、対象となる役員の範囲
  2. 弔慰金の算定方法: 「最終月額報酬×業務上死亡36ヶ月・業務外死亡6ヶ月」と明記
  3. 業務上死亡の定義: 労災認定を受けた場合、通勤災害を含むかなど
  4. 支給の決定手続き: 取締役会決議とするか、株主総会決議とするか
  5. 支給時期: 死亡後何日以内に支給するか
  6. 受給権者: 遺族の範囲と順位(民法の相続順位に準じるのが一般的)
ここまでで分かったこと
  • 弔慰金は退職金とは別に損金算入できる
  • 弔慰金規程は事前整備が必須。規程がないと税務調査で疑義を受けやすい

弔慰金規程を作成する際の実務ポイント

規程を作成する際に注意すべき実務的なポイントを整理する。

取締役会決議で十分か: 弔慰金は退職金と異なり、会社法上は株主総会決議が必須ではない。取締役会決議で足りるとする見解が多数だ。ただし、株主総会で決議しておけばより安全だ。

一人会社の場合: 株主と取締役が同一人物の一人会社でも弔慰金規程は作成できる。一人会社こそ規程の有無が税務調査での争点になりやすいため、必ず書面化しておくべきだ。

生命保険との関連: 弔慰金の原資として役員を被保険者とする生命保険に加入するケースが多い。保険金の受取人を法人にしておき、法人から遺族に弔慰金を支給する流れにすることで、損金算入と非課税のメリットを最大化できる。

香典との違い: 香典は社会的儀礼の範囲内であれば課税されない。弔慰金とは別枠で、通常は数万円から数十万円程度だ。弔慰金規程とは別に、慶弔規程として定めるのが一般的である。

まとめ

弔慰金は退職金と別枠で遺族に支給できる制度だ。業務上死亡なら月額報酬×36ヶ月、業務外死亡なら×6ヶ月が非課税限度額となる。

法人側は退職金と弔慰金を別々に損金算入でき、遺族側は非課税限度額の範囲内なら相続税がかからない。この二重のメリットを活かすには、弔慰金規程を事前に整備し、算定方法と支給手続きを明確にしておくことが不可欠だ。