退職金2,000万円を全額定期預金に入れた人と、3つの資産に分散投資した人。10年後の差は約400万円。さらに20年後にはその差は約900万円に広がる。

「分散投資は難しそう」と思う人は多い。しかし実際には、3つの箱にお金を分けるだけだ。

退職金の分散投資はなぜ必要なのか?

退職金の分散投資が必要な理由は「1つの資産が暴落しても全体の損失を抑えるため」だ。

分散投資とは、値動きの異なる複数の資産クラス(株式・債券・金など)に資金を分けて投資し、1つの資産の下落が全体に与える影響を抑制する投資手法のことだ。退職金のように「減らしてはいけない資金」において、分散は選択ではなく必須だ。

集中投資 vs 分散投資(退職金2,000万円・10年間)

投資方法好況時リターン暴落時の損失10年後の期待額
全額を株式に集中+60%(3,200万円)−40%(1,200万円)約2,600万円
全額を定期預金に集中+3%(2,060万円)0円約2,060万円
安全50%:株式35%:金15%+28%(2,560万円)−14%(1,720万円)約2,460万円

分散投資のポイントは「最大リターンを狙わない」ことだ。好況時は株式集中に劣るが、暴落時の損失を−40%から−14%に抑制できる。退職金は「増やすゲーム」ではなく「減らさないゲーム」だ。

ここまでで分かったこと
  • 分散投資は暴落時の損失を抑える保険。退職金では必須
  • 「最大リターン」ではなく「最小損失」を重視する発想が重要

退職金はどの資産クラスに分ければいい?

退職金の分散先は「安全資産」「株式」「代替資産」の3分類が基本だ。

退職金の分散先3分類

分類具体的な商品役割期待リターンリスク
安全資産定期預金・個人向け国債元本を守る0.1〜0.8%ほぼゼロ
株式全世界株式インデックス投信資産を成長させる3〜7%年−20〜−40%の下落あり
代替資産金ETF・REIT株式との逆相関で緩衝材2〜5%中程度

安全資産の中心は個人向け国債(変動10年)だ。元本保証+変動金利で、2026年時点の利率は年0.72%。定期預金より高利回りで、国が元本を保証する。

株式はインデックス投資信託を選ぶ。個別株ではなく、全世界株式インデックス(eMAXIS Slim全世界株式など)1本で約3,000銘柄に分散できる。

代替資産とは、株式・債券以外の投資対象を指す。金(ゴールド)は株式と逆方向に動きやすく、インフレヘッジとして有効だ。REIT(不動産投資信託)は不動産からの賃料収入を分配し、株式とも債券とも異なる値動きをする。

ここまでで分かったこと
  • 分散先は「安全資産・株式・代替資産」の3分類
  • 株式は全世界インデックス投信1本。代替資産は金ETFかREIT

年齢別の最適配分比率はどう決める?

年齢が上がるほど安全資産の比率を高め、株式の比率を下げる。「年齢 = 安全資産の比率(%)の目安」が基本ルールだ。

年齢別の退職金分散配分モデル(退職金2,000万円)

年齢安全資産株式代替資産期待リターン(年)
60歳800万円(40%)900万円(45%)300万円(15%)約2.8%
65歳1,000万円(50%)700万円(35%)300万円(15%)約2.2%
70歳1,200万円(60%)500万円(25%)300万円(15%)約1.7%

60歳で退職した場合、年金受給までの5年間は生活費の取り崩しが発生する。月の生活費25万円×12ヶ月×5年=1,500万円が必要だ。ただし退職金以外の貯蓄もあるため、退職金の安全資産800万円と合わせてカバーする設計にする。

Aさん(60歳・商社退職・退職金2,200万円)のケースを見よう。Aさんは退職金2,200万円を以下のように配分した。

Aさん(60歳)の退職金2,200万円配分

分類商品金額比率
安全資産定期預金(メガバンク)400万円18%
安全資産個人向け国債(変動10年)500万円23%
株式eMAXIS Slim全世界株式(NISA)900万円41%
代替資産金ETF(SPDRゴールド)200万円9%
代替資産J-REIT ETF200万円9%
合計—2,200万円100%

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、この配分で15年運用した場合の期待資産額は約3,080万円。全額定期預金の場合の約2,260万円と比較して、約820万円の差が出る。この差額が退職後の生活の余裕を決定的に変える。

ここまでで分かったこと
  • 60歳なら安全40%:株式45%:代替15%が目安
  • 年齢が上がるごとに安全資産比率を5〜10%ずつ引き上げる

退職金の分散投資でよくある失敗は何か?

分散投資で最も多い失敗は「分散しているつもりで、実は分散できていない」パターンだ。

分散投資のよくある失敗

失敗パターン一見分散に見えるが…なぜ分散になっていないか
国内株ファンド3本に分散3つに分けた全て日本株で地域が偏っている
銀行4行に定期預金4つに分けた全て定期預金で資産クラスが同じ
株式投信+株式ETF2つに分けたどちらも株式で暴落時に同時に下がる
テーマ型投信5本に分散5つに分けたテーマが重複し実質集中投資

本当の分散とは「値動きが異なる資産クラスに分ける」ことだ。同じ資産クラスの商品を複数買っても、分散効果は限定的だ。

Bさん(63歳・製薬メーカー退職・退職金2,400万円)は「分散投資をしている」と思っていた。日本株ファンド・米国株ファンド・新興国株ファンドの3本に各400万円を投入。しかし2022年の世界同時株安で3本ともに15〜25%下落。「株式」という資産クラスに集中していたため、分散効果が発揮されなかった。その後、国債300万円+金ETF200万円を追加し、真の分散ポートフォリオに修正した。

ここまでで分かったこと
  • 「商品を分ける」のと「資産クラスを分ける」のは別物
  • 株式ファンドを3本買っても分散にならない。国債・金との組み合わせが必須

リバランスはどうやればいい?

リバランスは年1回、当初の配分比率に戻す作業を行えば十分だ。

リバランスとは、値動きによって崩れた資産配分を当初の比率に戻す調整作業のことだ。株式が上がって比率が50%になっていたら、一部を売って安全資産に移し、当初の40%に戻す。

リバランスの例(60歳モデル・当初比率 安全40%:株式45%:代替15%)

資産当初1年後(株式上昇)リバランス後
安全資産800万円(40%)810万円(36%)900万円(40%)
株式900万円(45%)1,100万円(49%)1,012万円(45%)
代替資産300万円(15%)340万円(15%)338万円(15%)
合計2,000万円2,250万円2,250万円

リバランスの方法は2つある。

  1. 売却型:値上がりした資産を売って、値下がりした資産を買い増す。NISA口座での売却は非課税枠を消費するため注意
  2. 追加投入型:安全資産から株式や代替資産に追加投入する。非課税枠を減らさない利点がある

Cさん(65歳・元教員・退職金2,000万円)は毎年1月にリバランスを実施。「年1回、1時間の作業で安心を買えるなら安いもの」と話す。リバランスをしなかった場合と比較して、5年間のリスク調整後リターンが約0.3%改善した。

ここまでで分かったこと
  • リバランスは年1回でOK。配分が10%以上ずれたら調整
  • NISA口座の売却は非課税枠を消費。追加投入型が安全

まとめ:退職金の分散投資は「3つの箱」に分けるだけ

退職金の分散投資は、以下の3ステップで完了する。

  1. 退職金を3つの箱に分ける。安全資産(定期預金+国債)・株式(全世界インデックス投信)・代替資産(金ETF+REIT)
  2. 年齢に応じた比率で配分する。60歳なら安全40%:株式45%:代替15%。年齢が上がるごとに安全資産を増やす
  3. 年1回リバランスする。崩れた比率を元に戻すだけ

退職金の手取りを最大化する分散投資とは、複雑な金融知識を駆使することではない。3つの箱にバランスよく入れて、年に1回整えるだけだ。この単純な行動が、15年後の820万円の差を生む。