退職金2,000万円が口座に入った瞬間から、資産防衛の戦いは始まっている。普通預金に置いたままの1年間で、インフレにより実質約30万円の購買力が消える。

「どこに預けるか」は「いくら増えるか」より先に考えるべき問題だ。なぜなら、預け先を間違えると「増やす」前に「減る」からだ。

退職金の預け先にはどんな選択肢がある?

退職金の預け先として現実的な選択肢は5つ。定期預金・個人向け国債・投資信託・iDeCo・個人年金保険だ。

預け先とは、退職一時金を安全かつ効率的に保管・運用するために選択する金融商品や口座のことだ。「預ける」と「投資する」は異なる概念だが、退職金の文脈では「インフレから資産を守る」ために両方を組み合わせるのが一般的になっている。

退職金の預け先5選比較

預け先利回り元本保証流動性税制メリット
定期預金0.1〜0.5%あり(1,000万円まで)高いなし
個人向け国債(変動10年)0.5〜0.8%あり(全額)1年後から可なし
投資信託(バランス型)3〜4%なし高いNISA枠で非課税
iDeCo2〜6%なし60歳まで不可掛金全額控除
個人年金保険0.5〜1.5%条件付きあり低い保険料控除(年4万円まで)
ここまでで分かったこと
  • 預け先は5つ。1つに絞らず目的別に分散するのが基本
  • 元本保証は定期預金と国債のみ。投信とiDeCoは元本保証なし

定期預金は退職金の預け先としてどうか?

定期預金は生活防衛資金の置き場所として最適。ただし退職金全額の預け先としては不十分だ。

定期預金の最大の強みはペイオフ制度による元本保証だ。1つの金融機関につき元本1,000万円とその利息が保護される。退職金2,000万円なら、2つの金融機関に分けて預けることで全額が保護対象になる。

2026年時点の金利はメガバンクで年0.125〜0.3%、ネット銀行で年0.2〜0.5%程度。1,000万円を1年預けた場合の利息はメガバンクで約1.25万〜3万円、ネット銀行で約2万〜5万円だ。

注意すべきは「退職金専用定期預金」だ。年利1.0〜3.0%と高金利に見えるが、適用期間は3ヶ月間だけ。3ヶ月後は通常金利に戻る。さらに投資信託との抱き合わせ条件がついているケースが多い。

Aさん(60歳・公務員退職・退職金2,300万円)は、退職金専用定期の条件を確認せずに申し込み、投信購入手数料で利息以上のコストが発生した。「高金利」の文字だけで判断するのは危険だ。

退職金専用定期預金の落とし穴

項目見かけ実態
金利年3.0%3ヶ月のみ。年換算利息は約0.75%
適用期間記載なし(小さい文字)3ヶ月限定
条件なし(に見える)投信との抱き合わせ購入が必要
投信手数料記載なし購入額の2〜3%
実質リターン60万円/年利息15万円 − 手数料20万円 = −5万円
ここまでで分かったこと
  • 定期預金は生活防衛資金の置き場所。全額は非推奨
  • 退職金専用定期の高金利は3ヶ月限定。投信の抱き合わせに注意

個人向け国債は退職金にどう向いている?

個人向け国債(変動10年)は、退職金の「使い道が決まっていない資金」の最適な預け先だ。

国債のメリットは3つ。元本保証が国の信用で担保されること、変動金利でインフレに一部対応できること、1年経過後に中途換金できることだ。

2026年7月発行分の利率は年0.72%。定期預金(0.125〜0.3%)の2〜6倍の利回りだ。金利の下限は年0.05%に設定されているため、金利が下がってもゼロにはならない。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金2,000万円のうち800万円を個人向け国債(変動10年)に預けた場合、現在の金利水準が10年間継続すれば利息は約58万円。同額を定期預金(年0.25%)に預けた場合の利息20万円と比較して、38万円の差が出る。

購入は毎月可能で、1万円単位から買える。退職金の一部を毎月100万円ずつ8ヶ月に分けて購入する方法もある。

ここまでで分かったこと
  • 国債は「使い道未定の資金」に最適。元本保証+変動金利
  • 定期預金との利回り差は10年で約38万円(800万円の場合)

投資信託は退職金の預け先として安全か?

投資信託は元本保証がない。だが、退職金の一部を「成長させる」預け先としては最も合理的だ。

退職金で選ぶべき投資信託は「バランス型インデックスファンド」1択だ。株式と債券を50:50で組み合わせ、信託報酬が年0.2%以下の商品が基本になる。

バランス型投信を選ぶ理由は値動きの安定性だ。株式100%のインデックスファンドはリーマンショック時に約50%下落したが、株式50%・債券50%のバランス型は約25%の下落に留まった。退職金は「半分になっても待てる」資金ではないため、値動きの小ささが重要だ。

Bさん(58歳・製造業・退職金2,400万円)は、退職金のうち800万円をバランス型インデックスファンドに配分した。NISAの成長投資枠(年間240万円)を活用し、3年4ヶ月かけて購入。購入時手数料ゼロ、信託報酬年0.15%で、年間コストは約1.2万円に抑えた。

投資信託の種類と退職金適性

種類値動きコスト退職金適性
バランス型インデックス小〜中年0.1〜0.2%最適
全世界株式インデックス中〜大年0.05〜0.15%一部配分に適
テーマ型アクティブ大年1.0〜1.8%不向き
毎月分配型中年1.0〜1.5%不向き
ここまでで分かったこと
  • 退職金にはバランス型インデックスファンドが最適
  • NISAの成長投資枠で非課税。時間分散で購入するのが鉄則

iDeCoと個人年金保険はどう使い分ける?

iDeCoは「所得がある人」の手取り最大化ツール。個人年金保険は「確実に受け取りたい人」の保守的な選択肢だ。

iDeCoの最大のメリットは掛金が全額所得控除になることだ。退職後に再就職や個人事業で年収400万円がある場合、月2.3万円(年27.6万円)のiDeCo拠出で年約5.5万円の手取り増加になる。10年続ければ55万円の税制メリットだ。

一方、個人年金保険は保険料控除の上限が年4万円と小さく、税制メリットはiDeCoに大きく劣る。利回りも年0.5〜1.5%と低い。ただし、契約時に受取額が確定する商品があるため、「いくらもらえるか」が事前にわかる安心感がある。

iDeCo vs 個人年金保険

項目iDeCo個人年金保険
税制メリット掛金全額所得控除保険料控除(年4万円まで)
利回り運用次第(2〜6%)0.5〜1.5%(確定型)
元本保証なし条件付きあり
引出制限60歳まで不可契約期間中は解約控除
受取方法一時金 or 年金年金(一括も可)
向いている人所得がある人確実に受け取りたい人

Cさん(57歳・銀行退職・退職金2,600万円)は、退職後にコンサルタントとして独立。月6.8万円をiDeCoに拠出しつつ、妻名義で個人年金保険(月2万円)にも加入した。「iDeCoで手取りを最大化しつつ、保険で最低限の受取額を確保する二段構えにした」という。

ここまでで分かったこと
  • 所得があるならiDeCo一択。手取り最大化の効果が大きい
  • 個人年金保険は税制メリットが小さいが、確定受取の安心感あり

退職金2,000万円のベスト配分は?

5つの預け先に退職金をどう配分すべきか。目的別に整理する。

退職金2,000万円の目的別配分モデル

目的預け先金額割合
生活防衛定期預金(2行に分散)500万円25%
安全運用個人向け国債(変動10年)600万円30%
資産成長バランス型投信(NISA活用)700万円35%
手取り最大化iDeCo200万円10%
合計—2,000万円100%

この配分のポイントは3つ。

  1. 生活防衛資金(500万円)は定期預金で2行に分散。1行あたり250万円ならペイオフの上限内に余裕で収まる
  2. 国債と投信で守りと攻めのバランスを取る。国債30%:投信35%の比率は、リターンとリスクのバランスが良い
  3. iDeCoは所得がある期間だけ活用。退職後に収入がなければ、iDeCoの税制メリットは活かせない

まとめ

退職金の預け先は「1つに決める」ものではない。「目的別に分ける」ものだ。

定期預金で守り、国債で安全に増やし、投信で成長させ、iDeCoで手取りを最大化する。この4つの役割を理解すれば、退職金2,000万円の預け先は自動的に決まる。

最も避けるべきは「全額を1つの預け先に入れること」だ。それが定期預金であっても、投資信託であっても、リスクの集中は退職金運用の最大の敵になる。