退職金2,000万円を「とりあえず定期預金」に入れた人が、20年後に失う金額は約300万円。利息ではない。インフレによる購買力の目減りだ。

年率1.5%のインフレが20年続くと、2,000万円の実質価値は約1,700万円まで下がる。「減らしたくないから何もしない」が、実は最も確実に資産を減らす選択になる。

退職金の運用方法にはどんな選択肢がある?

退職金の運用方法は大きく7つ。定期預金・個人向け国債・投資信託・iDeCo・不動産投資・個人年金保険・ファンドラップだ。

それぞれの特徴を一覧で比較する。

退職金の運用方法7選比較

運用方法期待利回り元本保証流動性最低投資額
定期預金0.1〜0.3%あり(1,000万円まで)高い1万円〜
個人向け国債(変動10年)0.5〜0.8%あり1年後から可1万円〜
投資信託(バランス型)2〜5%なし高い100円〜
iDeCo2〜6%(運用次第)なし60歳まで引出不可月5,000円〜
不動産投資3〜6%なし低い数百万円〜
個人年金保険0.5〜1.5%条件付きあり低い(解約控除)月1万円〜
ファンドラップ1〜4%なし中程度300万円〜

退職金運用とは、退職一時金として受け取った資金を、将来の生活費や資産形成のために金融商品等で増やす行為を指す。運用の目的は「増やす」だけでなく「インフレから守る」ことも含まれる。

ここまでで分かったこと
  • 運用方法は7つ。元本保証の有無・利回り・流動性で選ぶ
  • 「何もしない」もインフレリスクを取っている

定期預金と個人向け国債はどう使い分ける?

生活防衛資金は定期預金、それ以外の安全資産は個人向け国債に配分するのが基本だ。

定期預金のメリットはペイオフ制度による元本保証(1金融機関あたり1,000万円まで)と高い流動性。デメリットは利率の低さだ。2026年時点のメガバンク定期預金金利は年0.125〜0.3%程度。1,000万円を1年預けても利息は1.25万〜3万円にしかならない。

一方、個人向け国債(変動10年)は国が元本を保証し、半年ごとに金利が見直される。金利の下限は年0.05%で、2026年7月発行分は年0.72%。1,000万円で年約7.2万円の利息が得られる。

購入後1年が経過すれば中途換金も可能だ。ただし直前2回分の利息相当額が差し引かれる。

定期預金 vs 個人向け国債

項目定期預金個人向け国債(変動10年)
金利0.125〜0.3%0.72%(2026年7月)
元本保証1,000万円まで全額
中途解約いつでも可1年経過後
インフレ対応弱い変動金利で一部対応
向いている用途生活防衛資金使い道未定の安全資産
ここまでで分かったこと
  • 生活防衛資金 → 定期預金。安全運用 → 個人向け国債
  • 国債の変動10年は金利上昇局面で有利

投資信託はどう選べばいい?

退職金で投資信託を始めるなら、全世界株式またはバランス型のインデックスファンドが基本だ。

退職金運用で避けるべきは「テーマ型投信」と「毎月分配型投信」だ。テーマ型はAIやEVなど特定テーマに集中するため値動きが激しい。毎月分配型は元本を取り崩して分配金を出すケースが多く、見かけの利回りに騙されやすい。

Aさん(58歳・製造業・退職金2,400万円)のケースを見よう。Aさんは銀行窓口で勧められたテーマ型投信に800万円を一括投資し、1年後に20%下落して640万円になった。一方、全世界株式インデックスに分散投資していれば、同期間のリターンは年平均5.2%だった。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金2,000万円を全世界株式インデックス60%・国内債券40%のバランスで運用した場合、年平均利回り3%で20年後に約3,610万円になる。

ここまでで分かったこと
  • インデックスファンド(全世界株式orバランス型)が基本
  • テーマ型・毎月分配型は退職金運用に不向き

iDeCoは退職金を受け取った後でも使える?

iDeCoは退職金受取後も活用できる。ただし受取タイミングに注意が必要だ。

iDeCoの掛金上限は会社員で月2.3万円、自営業で月6.8万円。掛金は全額所得控除になるため、退職後に再就職した場合や個人事業を始めた場合に手取り最大化の効果がある。

重要なのは「5年ルール」だ。退職金を一時金で受け取ってから5年以上あけてiDeCoを一時金で受け取ると、退職所得控除を再度利用できる。たとえば60歳で退職金を受け取り、65歳でiDeCoを一時金受取すれば、iDeCo分にも退職所得控除がフルに適用される。

逆に5年以内にiDeCoを受け取ると、退職所得控除の計算で不利になる。

iDeCo受取タイミングと退職所得控除

パターン退職金受取iDeCo受取控除の再利用
5年ルール適用60歳65歳以降可能(控除フル適用)
5年以内60歳63歳不可(控除が一部重複)
退職金なし—65歳フル適用
ここまでで分かったこと
  • iDeCoの「5年ルール」で退職所得控除を2回使える
  • 退職金受取から5年以上あけてiDeCo一時金受取が最適

退職金2,000万円のモデル配分はどうなる?

運用の正解は1つではないが、リスク許容度別に3つのモデル配分を示す。

退職金2,000万円のモデル配分(リスク許容度別)

資産クラス安全重視型バランス型成長重視型
定期預金(生活防衛)600万円500万円400万円
個人向け国債800万円400万円200万円
バランス型投信500万円600万円400万円
全世界株式投信100万円400万円800万円
iDeCo—100万円200万円
期待利回り(年)約0.8%約2.3%約3.8%
20年後の概算約2,340万円約3,150万円約4,220万円

どのモデルでも共通するのは「生活費2年分を定期預金で確保する」こと。60歳・月の生活費25万円なら600万円。この資金は絶対に運用に回さない。

残りの資金を「守りの資産(国債)」と「攻めの資産(投資信託)」に分ける。50代後半なら守り:攻め = 6:4、60代前半なら7:3が1つの目安だ。

ここまでで分かったこと
  • 生活費2年分は定期預金で死守。残りを国債と投信に配分
  • 50代後半は守り6:攻め4が目安

まとめ:退職金運用で最も大事なことは?

退職金運用の最大の敵は「焦り」と「無関心」だ。焦って全額を一括投資すれば暴落で半減するリスクがある。無関心で全額を預金に置けばインフレで目減りする。

やるべきことは3つ。

  1. 生活防衛資金(2年分)を定期預金で確保する
  2. 残りを国債・投信・iDeCoに分散し、年1回リバランスする
  3. 銀行窓口の営業トークで即決しない。1ヶ月は検討期間を取る

退職金は人生で1回きりの大きな資金だ。「正しく守りながら、少しだけ増やす」設計が、20年後の手取りを最大化する。