退職金2,000万円を普通預金に入れたまま3年。利息は年間2,000円。一方、インフレで物価は6%上昇し、2,000万円の実質的な購買力は約120万円分減少した。

「使い道がないから置いてある」は、実は毎年40万円ずつ損しているのと同じだ。退職金を使い切れない人がやるべきことは「使う」ことではない。「正しく置く場所を変える」ことだ。

退職金を放置すると何が起きますか?

インフレ率2%なら、2,000万円の購買力は10年で約1,640万円に目減りする。

インフレーション(インフレ)とは、物価が継続的に上昇し、お金の実質的な価値が下がる現象のことだ。日本銀行は物価上昇率2%を政策目標としている。

普通預金に放置した場合の実質価値の推移(退職金2,000万円・インフレ率2%)

経過年数名目残高実質購買力実質目減り額
0年(退職時)2,000万円2,000万円0円
3年後2,006万円約1,886万円約114万円
5年後2,010万円約1,814万円約186万円
10年後2,020万円約1,640万円約360万円
20年後2,040万円約1,346万円約654万円

普通預金の金利は年0.1%程度。インフレ率2%との差は1.9%。2,000万円に対して年間約38万円ずつ、実質的な資産価値が失われていく。

これは「損をしている」自覚がないまま進行する。通帳の数字は減らないからだ。しかし10年後にスーパーで買える食品の量は確実に減っている。

ここまでで分かったこと
  • インフレ率2%で2,000万円の実質価値は10年で約360万円目減り
  • 通帳の数字は減らなくても購買力は減る。「放置=安全」は錯覚

対策1|3分割法で退職金を配置する

退職金は「守る」「育てる」「備える」の3つに分けて管理する。

退職金2,000万円の3分割モデル

区分金額置き場所目的
生活防衛資金600万円普通預金生活費2年分。いつでも引き出せる状態
中期資金600万円個人向け国債(変動10年)5〜10年以内に使う資金。インフレに連動
長期運用800万円インデックス投信10年以上使わない資金。資産成長を狙う

Aさん(62歳・メーカー退職・退職金2,200万円)は、退職後2年間を普通預金に放置していた。3分割法を実行し、生活防衛資金660万円を普通預金に残し、個人向け国債に660万円、全世界株式インデックス投信に880万円を配分した。

3年後、個人向け国債は金利上昇の恩恵で年利0.5%以上に。インデックス投信は年平均5%の成長で約1,020万円に増えた。放置していた場合と比較して、約170万円の差が生まれた。

ここまでで分かったこと
  • 3分割法: 生活防衛資金+中期国債+長期インデックス
  • 普通預金に置く金額は生活費2年分に限定する

対策2|個人向け国債でインフレ負けを防ぐ

個人向け国債(変動10年)は、金利が半年ごとに見直されるためインフレに追随しやすい。

元本保証でありながら、金利上昇局面では利率が自動的に上がる。最低金利は年0.05%が保証されており、普通預金より不利になることはない。

普通預金 vs 個人向け国債(変動10年)の比較

項目普通預金個人向け国債(変動10年)
金利年0.1%程度(固定的)年0.5〜1.0%(変動・半年ごと見直し)
元本保証あり(1,000万円まで預金保険)あり(国が保証)
中途解約いつでも可1年経過後に可(直前2回分の利子相当額を差引)
インフレ対応不可(固定金利)一部対応(金利連動)

中期資金(5〜10年以内に使う予定の資金)を国債に置くだけで、普通預金との金利差は年0.4〜0.9%。600万円なら年間2.4万〜5.4万円の差になる。

ここまでで分かったこと
  • 中期資金は個人向け国債(変動10年)に置く
  • 元本保証+金利連動で普通預金より確実に有利

対策3|長期資金はインデックス投信で資産防衛する

10年以上使わない資金は、全世界株式インデックス投信に配分する。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金2,000万円のうち800万円を全世界株式インデックス(年平均リターン5%想定)で15年運用した場合、運用益は約864万円。税引後でも約689万円が手取りとして残る。同額を普通預金に置いた場合の利息は約12万円。差額は677万円だ。

800万円を15年運用した場合のシミュレーション

運用先15年後の評価額利益税引後利益
普通預金(年0.1%)約812万円約12万円約10万円
個人向け国債(年0.5%)約862万円約62万円約49万円
全世界株式インデックス(年5%)約1,664万円約864万円約689万円

ただしインデックス投信は元本保証がない。過去のデータでは、15年以上の保有期間であればどの時期に購入しても元本割れしていないが、将来の保証はない。だからこそ「10年以上使わない資金」に限定する。

Bさん(60歳・金融機関退職・退職金2,500万円)は、800万円をeMAXIS Slim全世界株式に投資。月5万円ずつの積立も併用し、5年後の評価額は約1,050万円。生活費には手をつけず、必要に応じて国債部分から取り崩している。

ここまでで分かったこと
  • 10年以上使わない資金→インデックス投信で資産成長
  • 15年保有なら過去のデータ上は元本割れなし。ただし保証ではない

使い切れない退職金の「出口戦略」は?

70代以降は運用を縮小し、取り崩しフェーズに移行する。

退職金の運用は「増やすこと」が目的ではない。「購買力を維持すること」が目的だ。70代以降は以下の出口戦略で計画的に取り崩す。

年代別の退職金管理方針

年代運用比率取り崩し方針
60〜64歳運用60%・安全資産40%生活防衛資金から取り崩し
65〜69歳運用40%・安全資産60%年金受給開始。不足分を国債から取り崩し
70〜74歳運用20%・安全資産80%インデックス投信を段階的に売却
75歳以降運用0〜10%・安全資産90〜100%資産の大半を預金・国債に移行

「使い切れない」のは悪いことではない。問題は「使い切れないまま放置する」ことだ。適切な場所に置き、年代に応じて取り崩す計画を立てれば、退職金は老後30年間の生活を支える土台になる。

ここまでで分かったこと
  • 70代以降は運用比率を段階的に下げる
  • 「使い切れない」は問題ではない。「放置する」が問題

まとめ

退職金を使い切れない人がやるべきことは3つだ。

  1. 3分割法で配置を変える。普通預金は生活費2年分に限定し、中期資金は国債、長期資金はインデックス投信へ
  2. インフレ負けを防ぐ。普通預金の放置は年間40万円の実質損失と心得る
  3. 70代以降の出口戦略を決めておく。運用から取り崩しへの移行タイミングを事前に設定する

退職金は「使い切る」必要はない。しかし「正しい場所に置く」必要はある。放置が最も損する選択だと知ることが、資産防衛の第一歩だ。