「退職金を3,000万円出したい」。その金額が適正かどうか、計算式に当てはめれば答えは出る。問題は、多くの社長がこの計算式を知らないまま退職金額を「なんとなく」決めていることだ。
役員退職金の適正額の計算式は?
適正額は功績倍率法で算定する。計算式は1つだけ。
最終月額報酬 × 役員在任年数 × 功績倍率 = 適正額上限
社長の功績倍率相場は3.0。この数字を使った早見表が以下だ。
社長の退職金適正額早見表(功績倍率3.0)
| 月額報酬 | 在任10年 | 在任15年 | 在任20年 | 在任25年 | 在任30年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 50万円 | 1,500万円 | 2,250万円 | 3,000万円 | 3,750万円 | 4,500万円 |
| 80万円 | 2,400万円 | 3,600万円 | 4,800万円 | 6,000万円 | 7,200万円 |
| 100万円 | 3,000万円 | 4,500万円 | 6,000万円 | 7,500万円 | 9,000万円 |
| 150万円 | 4,500万円 | 6,750万円 | 9,000万円 | 1億1,250万円 | 1億3,500万円 |
| 200万円 | 6,000万円 | 9,000万円 | 1億2,000万円 | 1億5,000万円 | 1億8,000万円 |
表の金額はあくまで「税務上の適正額の上限」だ。この金額以内であれば全額損金算入できる。超えた部分は損金不算入となる。
- 適正額 = 最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率
- 上限以内なら全額損金算入。超過部分は法人税追徴リスク
月額報酬が低い場合の対策は?
月額報酬50万円・在任20年だと、適正上限は3,000万円に留まる。報酬が低い社長が退職金を増やすには、計画的な対策が必要だ。
対策1: 報酬の段階的引上げ 退職の3〜5年前から、業績に見合った範囲で月額報酬を引き上げる。退職直前の急増は否認リスクが高い。年次で20〜30%ずつが目安。
対策2: 在任年数の確認 使用人兼務役員の期間も含めて在任年数をカウントできる場合がある。登記簿で就任日を確認しよう。
対策3: 小規模企業共済との併用 月額7万円(年間84万円)を全額所得控除で積み立て、退職時に受け取る。20年積立てれば約2,000万円を退職所得として受給できる。退職金本体とは別枠。
退職金の手取りはいくらになりますか?
適正額が決まったら、次は手取りの計算だ。退職金は退職所得として分離課税される。
(退職金 − 退職所得控除)× 1/2 = 退職所得金額
退職金額別の手取り概算(在任20年の場合)
| 退職金 | 退職所得控除 | 課税退職所得 | 税額概算 | 手取り概算 |
|---|---|---|---|---|
| 3,000万円 | 800万円 | 1,100万円 | 約267万円 | 約2,733万円 |
| 5,000万円 | 800万円 | 2,100万円 | 約650万円 | 約4,350万円 |
| 6,000万円 | 800万円 | 2,600万円 | 約880万円 | 約5,120万円 |
| 8,000万円 | 800万円 | 3,600万円 | 約1,310万円 | 約6,690万円 |
| 1億円 | 800万円 | 4,600万円 | 約1,780万円 | 約8,220万円 |
退職所得は給与所得と合算されない分離課税のため、現在の年収がいくらであっても退職金の税率に影響しない。
- 退職金3,000万円(在任20年)の手取りは約2,733万円
- 1億円でも手取り約8,220万円。分離課税のため税率が抑えられる
適正額を超えたらどうなりますか?
適正額を超えた部分は過大役員退職金として損金不算入となる。
たとえば適正額6,000万円に対して8,000万円を支給した場合:
- 過大部分: 2,000万円
- 法人税追徴: 約600万円(税率30%)
- 過少申告加算税: 約60〜90万円
- 延滞税: 別途発生
合計で約700万円前後の追加負担になる。しかも社長個人側では8,000万円全額に退職所得課税が済んでいるため、実質的に二重課税となる。
まとめ
適正額の計算は難しくない。最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率の3つの数字を掛けるだけだ。
問題は「自社の功績倍率がいくつまで認められるか」の判断だ。業種・規模・功績によって安全圏は異なる。同業類似法人のデータを持っている専門家に確認することで、否認リスクを最小化しつつ手取りを最大化できる。