退職金2,000万円のうち1,200万円を外貨建て一時払い終身保険に投入し、5年後に解約したら手元に戻ったのは約940万円。260万円の損失だ。為替は円高に動き、解約控除も差し引かれた。銀行窓口では「年利3.5%でお得」と説明されていた。

国民生活センターには外貨建て保険の相談が年間2,000件以上寄せられている。その多くが「こんなにコストがかかるとは聞いていなかった」「元本保証だと思っていた」という声だ。

外貨建て保険の二重コスト構造はどうなっているのか?

外貨建て保険は、「為替のコスト」と「保険のコスト」が二重にかかる。この構造が手取りを大きく削る。

外貨建て保険とは、保険料を米ドルや豪ドルなどの外国通貨で運用する生命保険のことだ。円で支払った保険料は外貨に換算され、外貨ベースで運用・保障される。受取時に外貨を円に戻すため、為替変動の影響を受ける。

コスト構造を分解すると以下のようになる。

外貨建て保険のコスト構造(一時払い1,000万円の場合)

コスト項目率/金額内容
為替手数料(円→外貨)約0.5〜1%片道50銭〜1円
契約初期費用4〜8%販売手数料として保険会社→銀行
保険関係費用(年間)1〜2%死亡保障・運営コスト
運用関係費用(年間)0.3〜0.5%特別勘定の管理費
為替手数料(外貨→円)約0.5〜1%解約・満期時
解約控除(10年以内)0〜10%早期解約のペナルティ

初年度だけで、1,000万円のうち50万〜90万円がコストとして消える。さらに毎年1.3〜2.5%が差し引かれ続ける。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金1,000万円を外貨建て一時払い終身保険(実質コスト年3.5%)に入れた場合と、同等の外貨資産をネット証券の外貨建てMMF(コスト年0.2%)で運用した場合の20年後の差額は以下のとおりだ。

外貨建て保険 vs 外貨建てMMF(1,000万円・20年間・外貨ベース年利4%)

項目外貨建て保険外貨建てMMF差額
初期費用−60万円−3万円57万円
年間コスト年3.5%年0.2%年3.3%
実質リターン年0.5%年3.8%年3.3%
20年後の資産(外貨ベース)約1,105万円約2,097万円約992万円

外貨ベースですら、20年後に約1,000万円の差が出る。ここにさらに為替変動が加わるのだ。

ここまでで分かったこと
  • 外貨建て保険は為替コスト+保険コストの二重構造で年3〜5%が消える
  • 同じ外貨運用でも、外貨建てMMFなら20年で約1,000万円の手取り差

銀行が退職金で外貨建て保険を勧める理由は何か?

銀行にとって外貨建て保険は「最も利益率が高い商品」の1つだ。

銀行が外貨建て一時払い保険を1件販売すると、保険料の4〜8%が販売手数料として入る。退職金1,000万円の契約なら、1件で40万〜80万円の収益だ。投資信託の販売手数料(0〜3%)や、定期預金の利ざや(年0.1%程度)と比べると、桁違いに儲かる。

Aさん(62歳・大手メーカー退職・退職金2,400万円)は、退職金が入金された翌日に銀行から電話を受けた。「退職金専用の特別プランをご案内したい」と言われ、翌週に来店。窓口で提案されたのは、米ドル建て一時払い終身保険だった。

「年利3.8%で10年後に約1,400万円になります」と説明を受け、1,000万円を契約。しかし後日パンフレットを読み直すと、「年利3.8%」は外貨ベースの話で、円ベースでは為替変動次第だった。さらに保険関係費用と為替手数料を差し引いた実質リターンは年1%未満だった。

銀行の商品別収益比較(1,000万円あたり)

商品初回手数料年間収益銀行にとっての魅力度
外貨建て一時払い保険40〜80万円継続手数料あり最高
変額保険30〜70万円継続手数料あり高
投資信託0〜30万円信託報酬の一部中
定期預金0円年約1万円低
ここまでで分かったこと
  • 外貨建て保険の販売手数料は1件40〜80万円。銀行の最大の収益源
  • 「退職金専用プラン」の電話は営業。相談ではない

為替変動で元本割れする仕組みはどうなっているのか?

外貨建て保険が円ベースで元本割れする仕組みを具体的に見てみよう。

Bさん(60歳・金融機関退職・退職金2,000万円)は、1ドル=155円の時に1,000万円を米ドル建て一時払い終身保険に入れた。契約初期費用を差し引いた実際の運用額は約940万円(米ドル換算で約6,065ドル)。

5年後、ドル円は130円まで円高に進んだ(約16%の円高)。外貨ベースの解約返戻金は約6,800ドル(年利2.3%で成長)。しかし円に戻すと約884万円。1,000万円が884万円に。116万円の損失だ。

外貨建て保険の元本割れシミュレーション

項目契約時5年後(円高16%)
為替レート155円/ドル130円/ドル
外貨ベースの資産6,065ドル6,800ドル(+12.1%)
円ベースの資産940万円884万円(−5.9%)
支払保険料1,000万円—
損益—−116万円

外貨ベースではプラスなのに、円ベースではマイナス。これが外貨建て保険の最大のリスクだ。しかも解約控除が残っている期間は、これ以上の損失が発生する。

ここまでで分かったこと
  • 外貨ベースで増えても円高で元本割れする。円で生活する以上、円ベースが重要
  • 為替変動+解約控除+手数料の三重苦で、5年以内の解約は損失確定に近い

外貨建て保険で損しないケースはあるのか?

ある。ただし条件が限定的だ。

ケース1: 相続税対策で使う場合。生命保険金は「500万円×法定相続人の数」まで相続税が非課税になる。法定相続人が3人なら1,500万円まで非課税。この枠を埋めるために外貨建て終身保険を使い、かつ解約する予定がないなら、為替変動は受取時の話になる。

ケース2: 円安が大幅に進む場合。1ドル=150円で契約し、20年後に200円まで円安が進めば、為替差益でコストを吸収できる。ただし20年後の為替レートは誰にも予測できない。

ケース3: 20年以上保有し、かつ外貨のまま使う場合。海外で老後を過ごす予定がある人は、外貨のまま受け取れるため為替リスクを回避できる。

いずれも「退職金を安全に増やしたい」という一般的な目的とはかけ離れている。

ここまでで分かったこと
  • 外貨建て保険が合理的なのは相続税対策など限定的なケースのみ
  • 「安全に増やしたい」退職金世代の目的には合わない

外貨建て保険の代わりに何を選ぶべきか?

外貨建て保険の「3つの機能」を分解し、それぞれ最適な商品で置き換える方が手取りを最大化できる。

外貨運用の機能 → 外貨建てMMFまたは低コストの外国債券ファンド。コストは10分の1以下。

死亡保障の機能 → 掛け捨ての定期保険。60代・1,000万円保障で月額5,000〜1万円程度。

相続税対策の機能 → 低コストの円建て終身保険。為替リスクなしで非課税枠を使える。

外貨建て保険 vs 分離運用の比較(1,000万円・20年間)

項目外貨建て保険分離運用(MMF+定期保険)
初期コスト約60万円約3万円
年間運用コスト約25万円約2万円
年間保障コスト込み約8万円
合計年間コスト約25万円約10万円
20年間の手取り差—+約500万円

外貨建て保険を「1つの商品で便利」と考えるか、「3つの機能を別々に持つ方が500万円得」と考えるか。数字は明確に後者を支持している。

ここまでで分かったこと
  • 外貨建て保険の3機能を分離すると20年で500万円の手取り差
  • 「1つで済む」は便利だがコストが高い。手取り最大化なら分離が正解

まとめ

退職金で外貨建て保険を契約する前に、以下の3つを銀行員に質問してほしい。

  1. 「為替手数料と保険関係費用を合わせた実質コストは年何%ですか?」
  2. 「契約初日に差し引かれる費用はいくらですか?」
  3. 「5年以内に解約した場合、1,000万円がいくらになりますか?」

この3つに明確な数字で答えられない場合、その商品は避けるべきだ。数字で答えられたとしても、同じ運用をインデックスファンドと掛け捨て保険で実現すれば、20年で500万円以上手取りが増える。退職金の手取りを最大化するなら、外貨建て保険という選択肢は合理的ではない。