退職金1,500万円を米ドル外貨預金に入れ、1年で約180万円を失った人がいる。金利は年4%で、利息は約60万円ついた。しかし円高が16%進み、為替差損が約240万円。差し引き180万円のマイナスだ。

銀行の窓口では「年利4%の高金利」と説明された。しかし為替リスクの説明は「為替変動により元本を下回る場合があります」の一文だけ。具体的にいくら損する可能性があるかは説明されない。

外貨預金の金利が高いのはなぜか?

外貨預金の高金利は「お得」なのではなく、為替リスクの対価だ。

外貨預金とは、日本円を外国通貨に換えて預金する金融商品のことだ。円預金との金利差は、基本的にその通貨の将来の下落(円高)リスクを織り込んだものであり、金利が高い通貨ほど長期的に円高になる傾向がある。これを「金利平価説」という。

米ドルの金利が年4%で円預金が年0.1%なら、差は3.9%。理論上、1年後にドル円は3.9%円高になることで金利差が相殺される。高金利は「もらえる利益」ではなく「織り込まれたリスク」なのだ。

実際のデータを見てみよう。過去20年で米ドル円は75円〜160円まで変動している。変動幅は最大53%。年4%の金利でカバーできる範囲をはるかに超えている。

米ドル円の年間変動率と外貨預金の損益

年年初レート年末レート変動率金利4%込み損益
2022年115円131円+13.9%+17.9%
2023年131円141円+7.6%+11.6%
2024年141円157円+11.3%+15.3%
2008年111円91円−18.0%−14.0%
2016年120円117円−2.5%+1.5%

2008年のリーマンショック時は、金利を含めても14%のマイナス。1,000万円なら140万円の損失だ。

ここまでで分かったこと
  • 外貨預金の高金利は為替リスクの対価。「お得」ではない
  • 米ドル円は年間で20%以上動くことがある。金利4%では到底カバーできない

為替手数料はどれだけ手取りを減らすのか?

外貨預金には「見えにくいコスト」がある。為替手数料だ。

大手銀行の窓口で米ドル外貨預金を組む場合、片道1円の為替手数料がかかる。円→ドルで1円、ドル→円で1円。往復で2円だ。

1ドル=150円の場合、往復2円のコストは約1.3%。1,000万円の外貨預金なら、預けて戻すだけで約13万円が手数料として消える。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金1,500万円を大手銀行の米ドル外貨預金に1年間預けた場合のコスト構造は以下のとおりだ。

退職金1,500万円・米ドル外貨預金のコスト構造(1年間)

項目金額備考
金利収入(税引前)+60万円年4%
税金(20.315%)−12.2万円利子所得として源泉徴収
為替手数料(往復)−20万円片道1円×2
実質手取り+27.8万円為替変動ゼロの場合
実質利回り約1.85%表面金利4%の半分以下

表面金利4%が、手数料と税金で実質1.85%まで下がる。ここからさらに為替変動が加わる。為替がわずか1.85%円高に動くだけで、実質利回りはゼロになる。

ネット銀行を使えば為替手数料は片道4〜25銭まで下がる。同じ外貨預金でも、窓口とネットでコストが10倍以上違う。

ここまでで分かったこと
  • 大手銀行の為替手数料は往復約1.3%。表面金利の3分の1が消える
  • ネット銀行なら手数料は10分の1以下。窓口で組む合理的理由はない

銀行が退職金で外貨預金を勧める理由は何か?

銀行にとって外貨預金は「確実に儲かる商品」だ。

為替手数料は、顧客が利益を出しても損をしても、銀行には確実に入る。1,000万円の外貨預金なら約13万円。退職金2,000万円を全額外貨預金に入れれば約26万円。銀行にとってリスクゼロの収益だ。

さらに銀行の戦略は「回転売買」にある。3ヶ月や6ヶ月の外貨定期が満期を迎えると、「今度は豪ドルがいいですよ」と別通貨への乗り換えを勧める。乗り換えるたびに為替手数料が発生する。年に2回乗り換えると、手数料は年間約2.6%になる。

Aさん(61歳・メーカー退職・退職金2,000万円)は、銀行員の勧めで1,200万円を米ドル外貨預金に入れた。3ヶ月後に豪ドルに乗り換え、さらに6ヶ月後にNZドルに乗り換えた。1年間で3回の通貨転換を行い、為替手数料だけで約47万円を支払った。金利収入は約38万円で、手数料を下回った。

銀行が外貨預金を勧めるインセンティブ構造

銀行の収益源1,000万円あたり顧客のメリット
為替手数料(初回)約6.5万円なし
為替手数料(満期返金)約6.5万円なし
通貨乗り換え時の手数料約13万円/回なし
関連商品の販売手数料商品による商品による
ここまでで分かったこと
  • 為替手数料は銀行のリスクゼロ収益。顧客の損益に関係なく入る
  • 通貨の乗り換えを勧められたら要注意。手数料の二重取り

外貨預金で元本割れした実例

Bさん(59歳・公務員退職・退職金2,200万円)は、退職金のうち1,000万円を豪ドル外貨預金に入れた。当時の豪ドルは1ドル=95円。金利は年3.5%で、1年後には35万円の利息がつく計算だった。

しかし半年後、豪ドルは1ドル=82円まで下落。13.7%の円高だ。1,000万円は約863万円に目減りした。利息を含めても約880万円。約120万円の損失が発生した。

Bさんは「円安に戻るまで待とう」と考えた。しかし2年経っても豪ドルは90円を超えなかった。結局3年後に1ドル=88円で解約し、利息を含めても約960万円。3年間で40万円の損失に終わった。

この事例の教訓は「待てば戻る」とは限らないことだ。豪ドルはリーマンショック前の2007年に1ドル=107円だったが、2025年現在も100円を超えていない。18年間、高値を回復していない。

ここまでで分かったこと
  • 「待てば戻る」は外貨預金では通用しない。18年戻らない通貨もある
  • 高金利通貨ほど長期的に通貨安(円高)になりやすい

外貨預金の代わりに何を選ぶべきか?

外貨に投資したいなら、外貨預金よりコストが低い方法がある。

選択肢1: 外貨建てMMF。為替手数料が安く(ネット証券で片道25銭程度)、いつでも解約できる。利回りは外貨預金と同程度だが、コストが低い分だけ手取りが多い。

選択肢2: 為替ヘッジ付き外国債券ファンド。為替リスクを抑えながら海外の金利を取れる。ヘッジコストがかかるが、為替変動で元本割れするリスクを大幅に軽減できる。

選択肢3: 全世界株式インデックスファンド。外貨建て資産に分散投資しつつ、為替リスクは株式のリターンで吸収する。20年以上の長期投資なら、過去のデータではほぼすべての期間でプラスリターンだ。

外貨預金 vs 代替商品の比較

商品為替リスクコスト流動性期待リターン
外貨預金(銀行窓口)あり年1.3%〜満期まで固定年1.5〜2%
外貨建てMMFあり年0.1〜0.3%即日換金可年3〜4%
為替ヘッジ付き債券F小さい年0.3〜0.5%即日換金可年1〜2%
全世界株式インデックスあり(長期で吸収)年0.05〜0.15%即日換金可年5〜7%

退職金の手取りを最大化するなら、外貨預金を選ぶ合理的な理由はほとんどない。同じ為替リスクを取るなら、コストが低く流動性が高い商品を選ぶべきだ。

ここまでで分かったこと
  • 外貨建てMMFは外貨預金とほぼ同じ商品でコストが10分の1
  • 為替リスクを避けたいなら為替ヘッジ付き債券ファンドが合理的

まとめ

退職金を外貨預金に入れる前に、3つの数字を確認してほしい。

  1. 為替手数料の往復コスト(大手銀行窓口で約1.3%)
  2. 税引後の実質利回り(表面金利4%でも実質は1.5〜2%程度)
  3. 元本割れする為替レート(実質利回り分の円高で元本割れ)

この3つを計算すれば、銀行窓口で外貨預金を組む合理的な理由がないことがわかる。外貨に投資するなら、ネット証券で外貨建てMMFか低コストの外国債券ファンドを選ぶ方が、手取りは確実に多くなる。