退職金2,000万円を「年利12%保証」の投資案件に全額投入し、1年後に業者と連絡が取れなくなった。被害額2,000万円、回収額ゼロ。これは国民生活センターに実際に寄せられた相談事例だ。

退職金運用には5つのリスクがある。しかし5つすべてに対策がある。リスクを「避ける」のではなく「管理する」ことが、退職金を守る唯一の方法だ。

リスク1|元本割れのリスクはどのくらいですか?

全世界株式インデックスの場合、1年間で最大30〜40%の下落がありえる。ただし15年以上保有すれば過去の実績上は元本割れゼロだ。

元本割れとは、投資した金額を下回る状態のことだ。2,000万円を投資して評価額が1,400万円になれば、600万円の元本割れが発生している。

全世界株式インデックスの最大下落率(過去の主要な暴落)

暴落イベント期間最大下落率回復までの期間
リーマンショック2008年−51%約5年
コロナショック2020年−34%約6ヶ月
ITバブル崩壊2000〜2002年−46%約7年
チャイナショック2015年−12%約6ヶ月

リーマンショック級の暴落が来た場合、2,000万円は一時的に約1,000万円まで下落する可能性がある。しかし過去の全暴落はすべて回復している。最長でも7年で元の水準に戻った。

対策は**「一括投資しない」と「15年以上保有する」**の2つだ。2年かけて分割投資すれば、暴落時に安く買える分、平均取得単価が下がる。15年以上の保有を前提にすれば、途中の暴落は「一時的な含み損」にすぎない。

ここまでで分かったこと
  • 全世界株式の最大下落率は約50%。しかし全暴落は回復している
  • 対策は分割投資+15年以上保有。一括投資は最大のリスク

リスク2|インフレリスクはなぜ見落とされますか?

インフレリスクは「何もしないことのリスク」だ。運用しない退職金は毎年実質目減りする。

インフレ率別|退職金2,000万円の実質価値の推移

経過年数インフレ率1%インフレ率2%インフレ率3%
5年後1,902万円1,810万円1,723万円
10年後1,809万円1,640万円1,486万円
15年後1,721万円1,486万円1,283万円
20年後1,637万円1,346万円1,107万円

インフレ率2%が20年続くと、2,000万円の実質購買力は1,346万円まで下がる。654万円分の価値が消える。これは通帳の残高が減らなくても起きる。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、日本のインフレ率が2%で推移した場合、退職金2,000万円を普通預金に20年間放置すると実質購買力は約654万円減少する。一方、全世界株式インデックス(年平均リターン5%)で運用すれば、インフレ率2%を差し引いた実質リターンは年3%。20年後の実質価値は約3,612万円になる。

対策は**「インフレ率以上のリターンが見込める資産に置く」**ことだ。全世界株式インデックスの過去30年の平均リターンは年約7%。インフレ率2〜3%を差し引いても実質4〜5%のリターンが確保できる。

ここまでで分かったこと
  • インフレ率2%で20年放置すると実質654万円の損失
  • 「何もしない」が最大のリスク。運用しなくても資産は減る

リスク3|詐欺リスクから身を守るには?

「元本保証で年利5%以上」と謳う商品は100%詐欺だ。退職金を全額失う最悪のリスクがここにある。

退職金を受け取った直後は、詐欺のターゲットになりやすい時期だ。まとまった現金を持ち、投資経験がなく、老後への不安がある。詐欺師にとって理想的な条件がそろっている。

退職金を狙った詐欺の典型パターン

手口セールストーク実態
ポンジスキーム元本保証で年利10%新規投資家の資金を既存投資家への配当に流用。資金が尽きて破綻
未公開株詐欺上場すれば2倍になる上場予定のない会社の株を高値で売りつける。換金不可
海外投資詐欺海外ファンドで年利15%実在しないファンド。送金後に連絡不通
暗号資産詐欺新しいコインが100倍に価値のないトークンを売りつけ、取引所から消える

Aさん(63歳・自営業・退職金1,500万円)は、知人の紹介で「元本保証・年利8%の海外不動産ファンド」に800万円を投資。最初の3ヶ月は月5万円の配当が振り込まれたが、4ヶ月目から配当が途絶え、業者と連絡が取れなくなった。被害額800万円、回収額ゼロ。

詐欺を見分けるルールは3つだけ。

  1. 金融庁の登録業者か確認する(金融庁のウェブサイトで検索可能)
  2. 「元本保証で年利5%以上」は詐欺だと断定する
  3. 知人・親族の紹介でも即決しない。紹介者も被害者である可能性がある
ここまでで分かったこと
  • 元本保証で年利5%以上は100%詐欺。例外はない
  • 金融庁の登録業者以外からの投資勧誘は全て断る

リスク4|集中投資のリスクとは?

全額を1つの商品に投入すると、その商品が下落した時に逃げ場がない。分散投資だけがこのリスクを消す。

集中投資とは、資産の大半を単一の銘柄・セクター・資産クラスに投入することだ。分散の反対にあたる。

Bさん(59歳・金融機関退職・退職金2,500万円)は、「金融のプロ」という自負から、退職金の80%(2,000万円)を日本の個別株5銘柄に集中投資した。うち3銘柄が同じセクター(半導体関連)だった。

半導体セクターの調整局面で3銘柄が同時に30%下落。2,000万円の投資額は1,500万円に減少。500万円の損失を出した。5銘柄に分散しているつもりだったが、同一セクターへの集中が分散効果を打ち消していた。

分散投資の効果比較

投資対象銘柄数1銘柄30%下落時の全体損失
個別株1銘柄に全額1銘柄−30%(600万円の損失)
同一セクター5銘柄5銘柄−15〜25%(連動リスク)
全世界株式インデックス約3,000銘柄−2〜5%(分散効果)

対策は全世界株式インデックス1本を保有するだけで完了する。約3,000銘柄・50ヶ国以上に自動的に分散され、1銘柄が破綻しても全体への影響は0.03%以下だ。

ここまでで分かったこと
  • 集中投資は「1つがダメなら全部ダメ」になるリスク
  • 全世界株式インデックス1本で3,000銘柄に分散される

リスク5|為替リスクにはどう対処しますか?

外貨建て資産は為替変動で円換算の価値が大きく変動する。ただし15年以上の長期保有なら為替リスクは吸収される。

全世界株式インデックスは資産の約60%が米ドル建てだ。つまり、円高が進むと円換算の評価額は下がる。

為替変動による退職金1,000万円(外貨建て部分)の影響

為替レート1ドル=150円時に購入損益
1ドル=160円(円安)1,067万円+67万円
1ドル=150円(変動なし)1,000万円±0円
1ドル=140円(円高)933万円−67万円
1ドル=120円(大幅円高)800万円−200万円

Cさん(60歳・商社退職・退職金2,000万円)は、退職金の70%を外貨建て資産(全世界株式インデックス)に投資。1年後に円高が10%進み、為替差損で約140万円の含み損が発生した。しかし株式のリターン(+8%)と相殺され、実質的な損失は約20万円に抑えられた。

対策は3つ。

  1. 外貨建て資産の比率を50%以下に抑える(残りは国内債券・預金)
  2. 為替ヘッジ付きファンドは使わない(ヘッジコストで年1〜2%の負担が発生)
  3. 15年以上保有する。長期では株式リターンが為替変動を上回る
ここまでで分かったこと
  • 外貨建て資産は50%以下に。円高リスクを限定する
  • 為替ヘッジはコスト負け。長期保有で為替変動を吸収する

5大リスクを一括で管理する「3原則」

分散・低コスト・長期保有の3原則を守れば、5大リスクの4つは同時に軽減される。

3原則と5大リスクの対応関係

リスク分散低コスト長期保有
元本割れ効果あり−効果大
インフレ−効果あり効果あり
詐欺−−−(別途対策が必要)
集中投資効果大−−
為替効果あり−効果あり

詐欺リスクだけは3原則では防げない。「金融庁登録業者のみ利用する」「元本保証で年利5%以上は断る」という別のルールが必要だ。

残りの4つのリスクは、全世界株式インデックスを毎月定額で積立購入し、15年以上保有するだけで自動的に管理される。特別な知識やスキルは不要だ。

ここまでで分かったこと
  • 分散・低コスト・長期保有の3原則で5大リスク中4つは管理可能
  • 詐欺だけは別ルール。金融庁登録の確認が必須

まとめ

退職金運用の5大リスクと対策をまとめる。

  1. 元本割れ: 分割投資+15年以上保有。全暴落は回復している
  2. インフレ: 運用しないことが最大のリスク。インフレ率以上のリターンを確保する
  3. 詐欺: 「元本保証で年利5%以上」は100%詐欺。金融庁登録業者のみ利用する
  4. 集中投資: 全世界株式インデックス1本で3,000銘柄に分散される
  5. 為替: 外貨建て比率を50%以下に。長期保有で為替変動は吸収される

リスクを恐れて何もしないことが、実は最大のリスクだ。5つのリスクを理解し、3原則で管理すれば、退職金は老後30年間の資産防衛の土台になる。