退職金2,000万円を銀行に入金した翌週、窓口から電話がかかってくる。「退職金専用の特別プランをご紹介したい」。そこで提示される年利6%の数字に安心して契約すると、3年後には手数料だけで約150万円が消えている。

これは銀行が悪いという話ではない。銀行のビジネスモデルを理解すれば、何に注意すべきかが見えてくる。

銀行の退職金プランはどういう仕組みですか?

銀行の退職金プランは、高金利定期預金を「入口商品」として退職者を集客し、投資信託・保険の販売手数料で収益を得るビジネスモデルだ。

具体的な仕組みはこうだ。

  1. 集客: 年利5〜7%の退職金定期預金を広告する
  2. セット販売: 定期預金と同額以上の投資信託(または外貨建て保険)の購入を条件にする
  3. 収益化: 投資信託の購入手数料(2〜3%)と毎年の信託報酬の一部(代行手数料)で利益を得る

銀行にとって、定期預金の高金利は「広告費」だ。年利6%で3ヶ月の利息コストは2,000万円に対して約30万円。一方、セット販売した投信1,000万円の手数料3%は30万円。初回で回収できる。

さらに信託報酬の代行手数料(年0.5〜0.7%)が毎年入り続ける。銀行から見れば、退職金プランは極めて収益性の高い商品だ。

ここまでで分かったこと
  • 退職金プランの本体は定期預金ではなく投信・保険の手数料収入
  • 高金利定期の利息コストは投信手数料で即回収される

セット商品の手数料で150万円損するのはなぜですか?

Bさん(60歳・公務員・退職金2,200万円)が銀行のセット型プランを契約したケースで試算する。

  • 定期預金:1,100万円(年利6%・3ヶ月)
  • 投資信託:1,100万円(購入手数料3%・信託報酬1.5%)

Bさんのセット型プランの3年間コスト

項目金額備考
定期預金の税引後利息+13.2万円年利6%×3ヶ月×税引後
投信の購入手数料−33.0万円1,100万円×3%
投信の信託報酬(3年分)−49.5万円1,100万円×1.5%×3年
3年間の合計コスト−69.3万円利息−手数料

ここまでで約69万円のマイナス。だが問題はこれで終わらない。

乗換え提案でさらに手数料が発生する仕組みとは?

銀行の収益モデルには「第2段階」がある。購入した投資信託を1〜2年後に別の投信に乗り換える提案だ。

「この商品は値上がりしたので利益確定しましょう。今ならもっと良い商品があります」。こう言われて乗り換えると、新しい投信にも購入手数料2〜3%が発生する。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、Bさんが3年間で2回の乗換えを行った場合の累計手数料は以下のとおり。

乗換えを含む3年間の累計手数料

項目金額
初回購入手数料33.0万円
1回目乗換え手数料31.0万円
2回目乗換え手数料29.0万円
信託報酬(3年分概算)49.5万円
累計手数料合計約142.5万円

定期預金の利息13.2万円を差し引いても、3年間で約130万円の手数料負担。乗換えのたびに購入手数料が発生するため、回転売買に近い構図になる。

金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」で、乗換え提案の適切性を金融機関に求めている。しかし、提案を受ける側がこの構造を知らなければ、守れるのは自分だけだ。

ここまでで分かったこと
  • 乗換え提案のたびに購入手数料2〜3%が発生する
  • 3年間で2回乗換えると累計手数料は約140万円

銀行の提案を受けるときに確認すべき3つの数字は?

銀行の窓口で退職金プランの説明を受けたら、以下の3つの数字を必ず確認する。

  1. 購入手数料(販売手数料): 投資信託の購入時に1回だけかかるコスト。ネット証券なら0%の商品が多数ある
  2. 信託報酬(運用管理費用): 保有している限り毎年かかるコスト。年0.1%以下のインデックスファンドと年1.5%のアクティブファンドでは、20年で6〜7倍の差になる
  3. 解約時の信託財産留保額: 解約時に差し引かれるコスト。0〜0.5%が一般的

この3つの合計が「見えないコスト」だ。パンフレットの金利ではなく、この3つの数字で商品を比較する。

銀行窓口 vs ネット証券のコスト比較(1,000万円運用・10年間)

コスト項目銀行窓口(典型例)ネット証券(インデックス)
購入手数料30万円(3%)0円
信託報酬(10年累計)150万円(年1.5%)10万円(年0.1%)
合計コスト約180万円約10万円
コスト差−170万円の差
ここまでで分かったこと
  • 確認すべきは購入手数料・信託報酬・信託財産留保額の3つ
  • 10年運用で銀行窓口とネット証券のコスト差は約170万円

銀行との付き合い方で手取りを最大化するには?

銀行を「敵」と見る必要はない。利益相反の構造を理解したうえで、使える部分だけ使えばよい。

具体的な手順は以下のとおり。

  1. 退職金定期預金は単独型を利用する: セット型を断り、高金利3ヶ月の定期預金だけ使う
  2. 投資信託はネット証券で購入する: 購入手数料0円・信託報酬0.1%以下のインデックスファンドを選ぶ
  3. 提案は「検討します」で持ち帰る: その場で契約しない。パンフレットの手数料を自宅で確認する
  4. 乗換え提案は原則断る: 長期保有がコスト最小化の基本。特別な理由がなければ乗り換えない

銀行との取引関係を維持したいなら、給与振込口座や住宅ローンで関係を保てばよい。退職金の運用まで銀行に任せる必要はない。

ここまでで分かったこと
  • 定期預金は単独型を使い、投信はネット証券で買う
  • 乗換え提案は原則断る。長期保有がコスト最小化の基本

まとめ:銀行の退職金プランで損しないために

銀行の退職金プランは「高金利定期で集客→投信手数料で回収→乗換えで追加回収」の3段階で手数料が積み上がる構造だ。

押さえるべきポイントは3つ。

  1. セット型は断り、定期預金単独型で3ヶ月の時間を確保する
  2. 購入手数料・信託報酬・信託財産留保額の3つの数字を必ず確認する
  3. 投資信託はネット証券のノーロード・低コストインデックスファンドを選ぶ