退職金1,000万円で変額保険に加入し、20年後の受取額が850万円だった。運用自体はプラスだったのに、元本割れだ。原因は年2.8%の手数料。20年間で約430万円が手数料として消えた。

同じ運用成績をインデックスファンドで実現していたら、手取りは約1,280万円。差額は430万円。退職金の43%にあたる金額が、商品選択の違いだけで消えた計算だ。

変額保険の手数料は実際にいくらかかるのか?

変額保険とは、支払った保険料の一部を株式や債券で運用し、運用成績に応じて保険金や解約返戻金が変動する保険商品のことだ。「保険」と「投資」を1つにまとめた商品だが、そのコスト構造は複雑で見えにくい。

手数料は大きく3つに分かれる。

1. 保険関係費用:死亡保障を維持するためのコスト。年0.5〜1.5%。これは保険料から毎月差し引かれる。パンフレットには「保険関係費」「危険保険料」などと記載されるが、具体的な率が明記されていないケースが多い。

2. 運用関係費用:特別勘定(投資信託に相当)の信託報酬。年0.3〜0.8%。これは運用資産から日々差し引かれる。

3. 契約初期費用:契約時に保険料から差し引かれる。一時払いの場合、保険料の3〜8%が初年度に控除される。1,000万円なら30万〜80万円が初日に消える。

変額保険のコスト構造(一時払い1,000万円の場合)

コスト項目年率/金額20年間の合計
保険関係費用年0.8〜1.5%約160〜300万円
運用関係費用年0.3〜0.8%約60〜160万円
契約初期費用3〜8%(初年度)約30〜80万円
合計実質年2〜3%超約250〜540万円

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金1,000万円を変額保険(実質コスト年2.8%)で20年間運用した場合と、同じ運用成績をインデックスファンド(コスト年0.1%)で実現した場合の差は以下のとおりだ。

変額保険 vs インデックスファンド(1,000万円・20年間・年利5%運用)

項目変額保険インデックスファンド差額
運用利回り(税前)年5.0%年5.0%—
実質コスト年2.8%年0.1%年2.7%
実質リターン年2.2%年4.9%年2.7%
20年後の資産約1,546万円約2,594万円約1,048万円
手数料総額約430万円約20万円約410万円

同じ運用でも、20年後の手取りに1,000万円以上の差が出る。コスト年2.7%の差は、複利で20年積み重なると、この破壊力になる。

ここまでで分かったこと
  • 変額保険の実質コストは年2〜3%。インデックスファンドの20〜30倍
  • 20年後の手取りは1,000万円以上の差。コストの複利効果は破壊的

なぜ銀行・保険会社は変額保険を勧めるのか?

変額保険は販売者にとって「最も儲かる商品」の1つだからだ。

銀行や保険代理店が変額保険を1件販売すると、保険料の3〜7%が販売手数料として支払われる。退職金1,000万円の変額保険なら、販売手数料は30万〜70万円。さらに継続手数料として毎年0.3〜0.5%が入る。

Aさん(60歳・銀行退職・退職金2,200万円)は、取引先銀行から「退職金専用プラン」として変額保険を提案された。「死亡保障もついて、運用もできる。一石二鳥ですよ」という説明だった。

しかしAさんは元銀行員だったため、手数料構造を理解していた。「銀行が変額保険を勧めるのは、販売手数料が高いから。顧客のためではない」と判断し、代わりにネット証券で低コストのバランス型インデックスファンドを購入した。

販売者の収益構造:変額保険 vs インデックスファンド

項目変額保険インデックスファンド(ネット証券)
初回販売手数料3〜7%0%(ノーロード)
継続手数料(年間)0.3〜0.5%0.01〜0.03%
1,000万円の初年度収益30〜70万円約1,000円

販売者の初年度収益が100倍以上違う。どちらを積極的に勧めるかは自明だ。

ここまでで分かったこと
  • 変額保険の販売手数料は3〜7%。1,000万円で30〜70万円が販売者の収益
  • 販売者が勧める商品=販売者が儲かる商品。顧客最適とは限らない

変額保険で損した実例

Bさん(61歳・公務員退職・退職金2,500万円)は、退職金のうち1,500万円を一時払い変額保険に入れた。「年利4%で回れば20年後に3,000万円以上になる」と説明された。

10年後、運用成績は年平均3.2%だった。悪くない数字だ。しかし解約返戻金は約1,420万円。10年間で手数料が約350万円差し引かれ、運用益をすべて食い尽くしていた。

Bさんは解約を検討したが、契約から10年以内の解約控除(ペナルティ)が残っていた。解約すると元本割れが確定するため、「あと2年待てば解約控除がなくなる」と考え、塩漬けにした。

12年後にようやく解約。返戻金は約1,540万円で、40万円のプラス。しかし12年間資金が拘束され、年利換算でわずか0.22%。定期預金にも劣るリターンだった。

ここまでで分かったこと
  • 運用成績がプラスでも手数料で相殺される。「運用益=手取り」ではない
  • 解約控除で10年間は資金拘束。途中で辞められない設計

変額保険の「保険機能」は退職金世代に必要か?

変額保険のセールスポイントは「死亡保障がついている」ことだ。しかし退職金世代にとって、死亡保障は本当に必要だろうか。

死亡保障が必要なのは「自分が死んだら家族の生活が成り立たなくなる」場合だ。子どもが独立し、住宅ローンも完済した60代にとって、高額な死亡保障の必要性は低い。

変額保険の死亡保障は最低保証があるため、保険としての機能はある。しかし、そのコスト(年0.8〜1.5%の保険関係費用)が見合うかどうかが問題だ。

死亡保障のコスト比較:変額保険 vs 定期保険

項目変額保険(1,000万円保障)定期保険(1,000万円保障)
年間コスト年8〜15万円(保険関係費用)年3〜8万円(保険料)
保障期間終身10〜20年
運用機能あり(ただし高コスト)なし
解約返戻金あり(変動)なし

死亡保障が必要なら、定期保険で必要額だけカバーし、運用はインデックスファンドで行う「保険と投資の分離」が手取りを最大化する方法だ。

ここまでで分かったこと
  • 60代で高額な死亡保障は不要なケースが多い
  • 保険と投資は分離する方がコスト効率が高い

変額保険の代わりに何を選ぶべきか?

退職金で変額保険を検討している人の目的は、おそらく「安全に増やしたい」と「万が一の保障もほしい」の2つだろう。この2つは別々の商品で実現した方が効率的だ。

運用部分:低コストのバランス型インデックスファンド。信託報酬年0.1〜0.2%。変額保険と同等の分散投資が、20分の1以下のコストで実現できる。

保障部分:必要なら掛け捨ての定期保険。60代・死亡保障500万円なら月額3,000〜8,000円程度。必要な期間だけ加入すれば無駄がない。

相続対策:生命保険の非課税枠を使いたいなら終身保険。生命保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税。この枠を使うなら、変額保険ではなく低コストの終身保険で十分だ。

変額保険 vs 分離運用(1,000万円・20年間)

項目変額保険インデックスF + 定期保険
運用コスト(年間)約28万円約1万円
保障コスト(年間)込み約5万円
合計コスト(年間)約28万円約6万円
20年間の手取り差—+約440万円
ここまでで分かったこと
  • 保険と投資を分離すると、20年で440万円以上の手取り差が生まれる
  • 相続の非課税枠だけが目的なら低コストの終身保険で十分

まとめ

退職金で変額保険に入る前に、3つの数字を確認してほしい。

  1. 実質コスト(保険関係費用+運用関係費用+契約初期費用で年2〜3%超)
  2. 解約控除の期間(10年以内の解約はペナルティで元本割れ)
  3. 同じ運用をインデックスファンドでやった場合の手取り差(20年で400万円以上)

この3つを計算すれば、変額保険を選ぶ合理的な理由がほとんどないことがわかる。保険は保険、投資は投資。分けて考えることが、退職金の手取りを最大化する鉄則だ。