退職金2,000万円とiDeCo800万円を同時に受け取ったAさんの税額は約132万円。一方、iDeCoを5年先に受け取ったBさんの税額は約50万円。同じ金額を受け取って、82万円の差がついた。

違いは「受取順序」だけだ。退職金とiDeCoの受取順序を変えるだけで、退職所得控除の使い方が変わり、税額が82万円も変わる。

退職金とiDeCoの受取順序でなぜ税額が変わるのですか?

退職金とiDeCoの受取順序で税額が変わるのは、退職所得控除を「共有」するか「別々に使う」かが変わるからだ。

退職所得控除とは、退職金やiDeCoの一時金から無条件で差し引ける非課税枠のことだ。退職金とiDeCoの一時金を同時(または短期間)に受け取ると、この控除枠を共有する。合計額に対して1つの控除枠しか使えない。

一方、受取時期を5年以上ずらせば、それぞれ別の控除枠を使える。控除額が2倍になるため、税額が大幅に減る。

受取順序と退職所得控除の関係

受取パターン間隔退職所得控除税負担
同時受取0年共有(1枠)大きい
iDeCo→退職金(5年以上)5年以上別枠(2枠)小さい
退職金→iDeCo(19年以上)19年以上別枠(2枠)小さい
退職金→iDeCo(19年未満)19年未満共有(1枠)大きい
ここまでで分かったこと
  • 退職所得控除を「共有」か「別枠」かで税額が大きく変わる
  • iDeCo→退職金の順で5年空ければ別枠で控除を使える

受取パターン別の税額シミュレーションはどうなりますか?

退職金2,000万円・iDeCo800万円・勤続30年・iDeCo加入20年のケースで3パターンを比較する。

パターン1: 同時受取(60歳で両方受取)

退職所得控除は勤続年数の長い方(30年)で計算。

  • 退職所得控除: 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
  • 退職金+iDeCo合計: 2,800万円
  • 課税退職所得:(2,800万円 − 1,500万円)× 1/2 = 650万円
  • 所得税: 650万円 × 20% − 42.75万円 = 87.25万円
  • 復興特別所得税: 約1.83万円
  • 住民税: 65万円
  • 税額合計: 約154万円

パターン2: iDeCo先行受取(55歳iDeCo→60歳退職金)※5年ルール活用

  • iDeCo(55歳): 控除800万円(加入20年)、800万−800万=0 → 税額0円
  • 退職金(60歳): 控除1,500万円(勤続30年)、(2,000万−1,500万)×1/2=250万円 → 税額約40万円
  • 税額合計: 約40万円

パターン3: 退職金先行受取(60歳退職金→61歳iDeCo)※19年ルール未達

  • 退職金(60歳): 控除1,500万円 → 課税退職所得250万円 → 税額約40万円
  • iDeCo(61歳): 控除枠を退職金と共有。19年未満のため、退職金で使った控除を差し引いて計算
  • iDeCo控除: 加入20年分800万円−重複分を調整 → 課税退職所得が発生 → 税額約37万円
  • 税額合計: 約77万円

受取パターン別の税額比較(退職金2,000万円・iDeCo800万円)

パターンiDeCo税額退職金税額合計税額パターン1との差
① 同時受取−−約154万円基準
② iDeCo先→5年後退職金0円約40万円約40万円−114万円
③ 退職金先→1年後iDeCo約37万円約40万円約77万円−77万円

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、5年ルールを活用したパターン2が最も税額が少なく、同時受取と比べて約114万円の手取り増になる。

ここまでで分かったこと
  • 5年ルール活用で同時受取より約114万円の手取り増
  • 退職金→iDeCoの順だと19年ルールの壁で控除が制限される

5年ルールの具体的な使い方はどうすればよいですか?

5年ルールを活用するには、iDeCoを先に一時金で受け取り、5年以上経過してから退職金を受け取る。現実的なパターンを3つ示す。

パターンA: 60歳iDeCo→65歳退職金(再雇用活用)

最も実現しやすい王道パターン。

  • 60歳: iDeCoを一時金で受取
  • 60〜65歳: 再雇用で勤務継続
  • 65歳: 退職金を受取

5年ルールとは、所得税法施行令第69条に基づき、「前年以前4年内」に受け取った退職手当等がなければ退職所得控除を別枠で計算できるとする規定をいう。iDeCo受取から5年(前年以前4年の外)経過すれば条件を満たす。

Cさん(58歳・会社員・iDeCo加入20年・積立800万円・勤続35年)の最適プラン:

  • 60歳: iDeCo一時金受取。控除800万円。800万−800万=0円 → 税額0円
  • 65歳: 退職金受取。控除1,850万円(勤続35年)。フル活用

パターンB: 55歳iDeCo→60歳退職金(早期退職活用)

55歳で早期退職制度が使える場合のパターン。ただし、iDeCoは原則60歳まで受取できないため、通算加入期間が10年未満の場合を除きこのパターンは使えない。

パターンC: 60歳iDeCo→66歳退職金(1年余裕を持つ)

5年ぴったりだと月単位の計算でずれるリスクがある。1年の余裕を持たせることで確実に5年ルールを適用できる。

5年ルール活用の現実的パターン

パターンiDeCo受取退職金受取間隔実現可能性
A: 再雇用活用60歳65歳5年高い
B: 早期退職55歳60歳5年条件付き
C: 余裕持ち60歳66歳6年高い
ここまでで分かったこと
  • 60歳iDeCo→65歳退職金が最も現実的な5年ルール活用法
  • 5年ぴったりは月単位のずれに注意。1年余裕を持つと安全

5年ルールが使えない場合はどうすればよいですか?

60歳で退職金とiDeCoを同時に受け取らざるを得ない場合の対策は2つある。

対策1: 退職金を一時金+iDeCoを年金受取にする

iDeCoを年金(分割)で受け取り、公的年金等控除を活用する。60〜65歳は公的年金(老齢厚生年金)がない場合が多く、公的年金等控除の枠が空いている。

Dさん(60歳・退職金2,000万円・iDeCo800万円・65歳まで年金なし・勤続30年)の場合:

  • 退職金: 一時金で受取。控除1,500万円 → 税額約40万円
  • iDeCo: 60〜65歳に年金受取(年160万円×5年)
  • 60〜64歳の公的年金等控除: 年60万円
  • 雑所得: 160万−60万=100万円/年
  • 税額: 約15万円/年×5年=約75万円
  • 合計税額: 約115万円

同時一時金(約154万円)より約39万円お得になる。

対策2: 退職所得控除の余裕分をiDeCo一時金に充てる

退職所得控除に余裕がある場合、余裕分だけiDeCoを一時金で受け取り、残りを年金にする。

5年ルールが使えない場合の代替戦略

戦略税額(概算)同時一時金との差
同時一時金約154万円基準
退職金一時金+iDeCo年金(5年)約115万円+39万円
退職金一時金+iDeCo一部一時金+年金約95万円+59万円
ここまでで分かったこと
  • 5年ルールが使えないならiDeCoの年金受取で公的年金等控除を活用
  • 60〜65歳は公的年金がないため控除枠が空いている

受取順序を決めるチェックリストはありますか?

受取順序を決める前に確認すべき5項目を整理する。

1. 再雇用の予定はあるか?

  • あり → 60歳iDeCo受取→65歳退職金受取で5年ルール活用
  • なし → 同時受取の代替戦略を検討

2. iDeCoの加入年数は何年か?

  • 退職所得控除=40万円×加入年数(20年以下)。加入20年なら控除800万円
  • iDeCo残高が控除内なら、iDeCo一時金で税額ゼロ

3. 退職金は退職所得控除内に収まるか?

  • 収まる → 退職金は一時金で税金ゼロ
  • 超える → 超過分の税額を計算

4. 60〜65歳の公的年金はあるか?

  • ない → iDeCoの年金受取で公的年金等控除を活用しやすい
  • ある → 控除枠の競合に注意

5. 勤務先で退職金の受取時期を選べるか?

  • 選べる → 5年ルール活用の余地あり
  • 選べない → 同時受取の代替戦略
ここまでで分かったこと
  • 再雇用の予定がある→5年ルールが使える可能性が高い
  • 60〜65歳に公的年金がない→iDeCo年金受取が有利

まとめ:受取順序を変えるだけで82万円の差

退職金とiDeCoの受取順序は手取りに直結する。最も税額が少ないのはiDeCo→退職金の順で5年以上空ける5年ルールの活用だ。

  1. 最適解: iDeCoを60歳で一時金受取→退職金を65歳で受取(5年ルール活用)
  2. 次善策: 退職金を一時金+iDeCoを年金(60〜65歳で分割受取)
  3. 避けるべき: 退職金とiDeCoの同時一時金受取

受取順序は退職後に変更できない。50代前半のうちに勤務先の退職金制度・iDeCoの残高・再雇用の可否を確認し、受取計画を立てておくことが82万円を守る唯一の方法だ。