退職所得控除の計算を間違えたAさん(60歳・勤続30年6ヶ月)は、控除額を1,500万円だと思い込んでいた。実際は勤続年数の端数切り上げで31年扱いとなり、控除額は1,570万円。70万円分の控除を見落とし、税額を多く見積もっていた。

退職所得控除は退職金の手取りを決定する最大の要素だ。計算ルールは2つしかないが、端数処理や特例を知らないと正確な手取りが計算できない。

退職所得控除はどうやって計算しますか?

退職所得控除は、勤続20年以下と20年超で計算式が変わる2段階方式で計算する。

退職所得控除額とは、退職金から無条件で差し引くことのできる非課税枠のことだ。この控除額が大きいほど、退職金にかかる税金は少なくなる。

計算式

  • 勤続20年以下: 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
  • 勤続20年超: 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

勤続年数は1年未満の端数を切り上げる。19年6ヶ月なら20年、30年1日でも31年として計算する。

退職所得控除額の早見表

勤続年数計算式控除額1年あたり増加額
10年40万×10400万円40万円
15年40万×15600万円40万円
20年40万×20800万円40万円
21年800万+70万×1870万円70万円
25年800万+70万×51,150万円70万円
30年800万+70万×101,500万円70万円
35年800万+70万×151,850万円70万円
38年800万+70万×182,060万円70万円
40年800万+70万×202,200万円70万円
ここまでで分かったこと
  • 勤続20年以下は40万円/年、20年超は70万円/年で控除が増える
  • 勤続年数は1年未満切り上げ。端数の活用で控除が最大70万円増える

勤続20年超で控除が増える仕組みはどうなっていますか?

勤続20年超になると、1年あたりの控除額が40万円から70万円に跳ね上がる。30万円の差は、長期勤続を税制で優遇する趣旨だ。

この「20年の壁」を具体的な数字で確認する。

勤続19年・20年・21年の控除額比較

勤続年数退職所得控除額前年からの増加額
19年760万円+40万円
20年800万円+40万円
21年870万円+70万円
22年940万円+70万円

20年から21年になると、増加額が40万円から70万円に変わる。21年目以降は毎年70万円ずつ控除が積み上がるため、長く勤めるほど税負担の軽減効果が大きくなる。

退職金2,000万円のケースで、勤続20年と25年の手取り差を計算する。

  • 勤続20年: 控除800万円 → 課税退職所得600万円 → 税額約142万円
  • 勤続25年: 控除1,150万円 → 課税退職所得425万円 → 税額約68万円
  • 手取り差: 約74万円

5年の勤続年数の差で、退職所得控除が350万円増え、手取りが74万円変わる。

ここまでで分かったこと
  • 20年超は1年あたり70万円の控除。20年以下の40万円から大幅増
  • 勤続20年と25年で退職金2,000万円の手取り差は約74万円

勤続年数の端数はどう処理しますか?

勤続年数の端数は1年未満を切り上げる。これは退職者に有利なルールだ。

  • 19年11ヶ月 → 20年
  • 20年1日 → 21年
  • 30年6ヶ月 → 31年

特に注目すべきは「20年と1日」のケース。たった1日の差で勤続年数が21年になり、退職所得控除が800万円から870万円に増える。70万円の控除増加は、課税退職所得を35万円(70万円×1/2)減らす効果がある。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職日を1日遅らせて勤続年数が切り上がるケースでは、税額が最大で約3.5万〜7万円減少する。退職日の調整が可能なら人事部に相談する価値がある。

ここまでで分かったこと
  • 勤続年数は1年未満切り上げ。1日の差で控除が70万円変わる
  • 退職日を1日遅らせるだけで税額が数万円減るケースがある

転職歴がある場合の退職所得控除はどうなりますか?

転職歴がある場合は、前職の退職金受取状況によって退職所得控除の計算が変わる。前年以前4年内に退職金を受け取っている場合は調整が必要だ。

具体的には、前職の退職金受取から4年以内に現在の会社で退職金を受け取る場合、前職の勤続期間と重複する期間は退職所得控除の計算から除かれる。

Bさん(55歳)のケース:

  • 前職: 勤続15年で退職金受取(3年前)
  • 現職: 勤続10年で退職金受取

この場合、前職の退職から4年以内のため、重複期間の調整が入る。

転職歴ありの退職所得控除の調整

条件退職所得控除備考
前職退職から5年以上経過現職の勤続年数で計算調整不要
前職退職から4年以内重複期間を調整控除が減る可能性あり
前職で退職金を受け取っていない前職+現職の通算勤続年数で計算有利になるケースあり

前職の退職から5年以上経過していれば調整は不要で、現職の勤続年数だけで退職所得控除を計算する。

ここまでで分かったこと
  • 前職退職から4年以内に退職金を受け取ると控除の調整が入る
  • 前職退職から5年以上経過していれば調整不要

障害者になって退職した場合の特例はありますか?

ある。障害者になったことが直接の原因で退職した場合、通常の退職所得控除額に100万円が加算される。

この特例は勤続年数に関係なく適用される。

障害者退職の退職所得控除の特例

勤続年数通常の控除額障害者特例適用後
15年600万円700万円
20年800万円900万円
25年1,150万円1,250万円
30年1,500万円1,600万円

「障害者になったことが直接の原因で退職」とは、業務上の傷病や通勤災害などにより障害者となって退職するケースを指す。自己都合退職や定年退職は対象外だ。

ここまでで分かったこと
  • 障害者退職は退職所得控除に100万円加算
  • 業務上の傷病などが原因で退職した場合に適用

退職所得控除を最大限に活用するポイントは?

退職所得控除を最大限に活用するために押さえるべきポイントは4つだ。

1. 勤続年数の切り上げを意識する

退職日を1日遅らせるだけで勤続年数が1年増え、控除が40万円(20年以下)または70万円(20年超)増える。人事部に退職日の相談をする。

2. 勤続20年の壁を超える

20年超になると1年あたりの控除が70万円に跳ね上がる。勤続19年で退職を考えているなら、1年待つだけで控除が70万円増える(800万円→870万円)。

3. iDeCoや小規模企業共済との併用を計画する

iDeCoや小規模企業共済の一時金も退職所得控除の対象だ。退職金と同時に受け取ると控除枠を共有するため、5年ルールを活用して受取時期をずらすことで控除枠を別々に使える。

4. 前職の退職金受取時期を確認する

前年以前4年内に退職金を受け取っていると退職所得控除の調整が入る。転職歴がある場合は前職の退職金受取時期を確認しておく。

ここまでで分かったこと
  • 勤続20年超で控除が40万円/年→70万円/年に増加
  • iDeCo・小規模企業共済との併用は5年ルールで控除を最大化

まとめ:退職所得控除は退職金の手取りを決める最重要要素

退職所得控除は2つの計算式で算出する。勤続20年以下は40万円/年、20年超は70万円/年。

  1. 計算式は2つだけ: 20年以下は40万円×勤続年数、20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)
  2. 端数は切り上げ: 1年未満の端数は1年としてカウント。退職日の調整で控除が増える
  3. 障害者特例: 障害者退職なら100万円加算
  4. 転職歴: 前職退職から4年以内は控除の調整あり

自分の退職所得控除額を正確に計算し、退職金の手取りを把握しておくことが資産防衛の第一歩だ。