退職金2,000万円で住宅ローン残債800万円を一括返済。手元には1,200万円が残る。一見すると堅実な判断に見えるが、金利0.5%のローンなら、返済で節約できる利息はわずか38万円だ。同じ800万円を年利4%で10年運用すれば、約384万円の運用益が見込める。
つまり低金利ローンの繰上返済は、346万円分の機会損失になりうる。返済すべきか、運用すべきか。答えはローン金利で決まる。
繰上返済と運用、損益分岐点はどこですか?
**住宅ローン金利1.5%が判断の分かれ目だ。**金利1.5%以下なら運用優先、2.0%以上なら繰上返済優先が基本方針になる。
繰上返済とは、毎月の返済額とは別に元本を前倒しで返済し、将来の利息負担を減らすことだ。返済期間短縮型と返済額軽減型の2種類がある。
金利別|繰上返済 vs 運用のシミュレーション(残債800万円・残10年)
| ローン金利 | 繰上返済の利息削減額 | 運用益(年利4%・10年) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 0.5% | 約20万円 | 約384万円 | 運用が+364万円 |
| 1.0% | 約41万円 | 約384万円 | 運用が+343万円 |
| 1.5% | 約62万円 | 約384万円 | 運用が+322万円 |
| 2.0% | 約84万円 | 約384万円 | 運用が+300万円 |
| 3.0% | 約129万円 | 約384万円 | 運用が+255万円 |
数字だけ見れば金利3.0%でも運用が有利に見える。しかし運用には元本割れリスクがある。金利2.0%以上のローンなら、確実に得られる利息削減を選ぶ方がリスク調整後のリターンでは合理的だ。
- 金利1.5%以下→運用優先、2.0%以上→繰上返済優先
- 運用は元本割れリスクあり。繰上返済は確実な利息削減
繰上返済で「損する」のはどんなケースですか?
低金利ローンを全額繰上返済し、手元資金がなくなるケースが最も損する。
Aさん(58歳・製造業・退職金2,400万円)は、住宅ローン残債1,200万円(金利0.7%・残12年)を退職金で一括返済した。残った1,200万円のうち、生活費で月25万円を取り崩し始めた。
3年後、自宅の給湯器交換と屋根修繕で150万円の臨時出費が発生。貯蓄は300万円まで減っており、修繕費を捻出するために定期預金を中途解約せざるを得なかった。
仮に繰上返済せず、毎月の返済(約9万円)を続けていれば、1,200万円を運用しながら急な出費にも対応できた。金利0.7%で12年間に支払う利息は約51万円。手元に1,200万円を残す安心感と比較すれば、51万円は「流動性の保険料」としては安い。
- 低金利ローンの利息は「流動性の保険料」と考える
- 全額返済で手元資金ゼロは最大のリスク
繰上返済すべき3つの条件とは?
金利2.0%以上・残年数10年以上・残債が退職金の半額以下なら繰上返済が有利だ。
繰上返済を優先すべき3条件
| 条件 | 基準 | 理由 |
|---|---|---|
| ローン金利 | 2.0%以上 | 確実な利息削減効果が運用リスクに見合う |
| 残年数 | 10年以上 | 利息削減額が大きくなる |
| 残債 | 退職金の50%以下 | 返済後も十分な手元資金を確保できる |
Bさん(60歳・公務員・退職金2,200万円)は、住宅ローン残債900万円(金利1.8%・残15年)を繰上返済した。利息削減額は約127万円。返済後も手元に1,300万円が残り、生活防衛資金として十分だった。
当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金2,000万円で残債800万円(金利1.8%・残15年)を繰上返済した場合、利息削減額は約111万円。手元に残る1,200万円を年利4%で15年運用すると約960万円の運用益が見込め、繰上返済と運用の両立が最も効率的な選択となる。
- 金利2.0%以上・残年数10年以上・残債が退職金の半額以下が返済の条件
- 繰上返済と運用の「両立」が最適解になるケースが多い
住宅ローン控除が残っている場合はどうしますか?
住宅ローン控除の期間中は繰上返済を待つ方が得だ。
住宅ローン控除は年末のローン残高の0.7%が所得税から控除される制度だ。残高1,000万円なら年間7万円の税額控除。繰上返済で残高を減らすと、この控除も減る。
住宅ローン控除と繰上返済の損得比較(残高1,000万円・金利0.5%)
| タイミング | 残り控除額(5年分) | 繰上返済の利息削減 | 差引 |
|---|---|---|---|
| 控除期間中に全額返済 | 0円(控除消滅) | 約12万円 | −23万円(損) |
| 控除期間終了後に返済 | 約35万円 | 約12万円 | +23万円(得) |
金利0.5%で控除残り5年の場合、控除期間終了を待ってから繰上返済した方が約23万円得になる。ただし金利2.0%以上なら利息削減効果の方が大きいため、控除を捨てても繰上返済した方がよい。
- 控除期間中×低金利なら繰上返済を待つ方が得
- 金利2.0%以上なら控除を捨てても返済優先
最適な繰上返済額はいくらですか?
退職金から生活防衛資金(生活費2年分)を差し引いた残額の50%が上限だ。
退職金2,000万円の配分モデル(ローン残債800万円・金利0.7%の場合)
| 配分先 | 金額 | 理由 |
|---|---|---|
| 生活防衛資金 | 600万円 | 月25万円×24ヶ月 |
| 繰上返済 | 0円 | 金利0.7%のため運用優先 |
| 運用資金 | 1,200万円 | インデックス投資で長期運用 |
| 予備費 | 200万円 | 住宅修繕・医療費に備える |
退職金2,000万円の配分モデル(ローン残債800万円・金利2.5%の場合)
| 配分先 | 金額 | 理由 |
|---|---|---|
| 生活防衛資金 | 600万円 | 月25万円×24ヶ月 |
| 繰上返済 | 800万円 | 金利2.5%のため全額返済 |
| 運用資金 | 400万円 | 残額でインデックス投資 |
| 予備費 | 200万円 | 住宅修繕・医療費に備える |
ローン金利で配分が180度変わる。金利が判断の鍵を握っている。
- 生活防衛資金(生活費2年分)を必ず先に確保
- 繰上返済額は金利で決める。0.7%なら0円、2.5%なら全額
まとめ
退職金で住宅ローンを繰上返済すべきかの判断基準は3つだ。
- 金利1.5%以下なら繰上返済より運用が有利。0.5%なら利息削減額はわずか20万円
- 住宅ローン控除が残っているなら、控除期間終了を待つ
- 全額返済は禁物。生活防衛資金600万円+予備費200万円を必ず確保する
「ローンがあると不安」という感情は理解できる。しかし低金利時代において、手元資金を手放すことの方がリスクは大きい。金利という数字で判断すれば、最適な答えは自然と見えてくる。