退職金2,000万円を受け取ったとき、多くの人が「これで老後は安泰だ」と考える。しかし、60歳から90歳までの30年間に必要な生活費は約7,200万円。年金を差し引いても、退職金だけでは700万円以上足りないケースが大半だ。
退職金だけで老後は足りますか?
結論から言うと、退職金2,000万円だけでは90歳まで持たない可能性が高い。60〜65歳の生活費で大半を消費するためだ。
厚生労働省「就労条件総合調査」令和5年によると、大卒・勤続35年以上の定年退職金は平均2,048万円。一方、60歳から65歳までの生活費は夫婦世帯で月22〜25万円(持ち家の場合)。5年間で1,320〜1,500万円が消える。
老後資金の不足額とは、退職金・年金・貯蓄などの収入合計から、死亡時までの生活費・医療費・介護費の合計を差し引いた不足分をいう。
退職金額別・65歳時点の残高シミュレーション
| 退職金 | 60〜65歳の取り崩し(月22万円) | 65歳時点の残高 |
|---|---|---|
| 1,500万円 | 1,320万円 | 180万円 |
| 1,800万円 | 1,320万円 | 480万円 |
| 2,000万円 | 1,320万円 | 680万円 |
| 2,500万円 | 1,320万円 | 1,180万円 |
| 3,000万円 | 1,320万円 | 1,680万円 |
- 退職金2,000万円でも65歳時点の残高は680万円
- 退職金だけで90歳まで賄うには3,000万円以上が必要
不足額を計算する5ステップとは?
以下の5ステップで、自分の老後資金の不足額を正確に算出できる。
ステップ1: 退職金の手取り額を確認する 退職金は退職所得として課税される。勤続35年なら退職所得控除は1,850万円。退職金2,000万円の場合、課税対象は(2,000万 − 1,850万)× 1/2 = 75万円。税額は約11万円で、手取りは約1,989万円だ。
ステップ2: 60〜65歳の生活費を見積もる 月間生活費 × 60ヶ月で計算。夫婦・持ち家で月22万円なら1,320万円。
ステップ3: 65歳時点の残高を出す 退職金手取り − 60〜65歳の生活費 + その他貯蓄。Aさん(58歳・製造業・退職金2,400万円)の場合、手取り約2,350万円 − 1,320万円 + 貯蓄500万円 = 1,530万円。
ステップ4: 65歳以降の月間不足額を計算する 年金見込月額 − 月間生活費 = 月間不足額。年金月額18万円(夫婦合算)、生活費23万円なら月5万円の不足。
ステップ5: 65歳時点の残高で何年持つか確認する 残高 ÷ 月間不足額 = 補填可能月数。1,530万円 ÷ 5万円 = 306ヶ月 = 90.5歳まで。Aさんの場合は90歳をクリアできる。
ステップ4-5:年金月額別・不足額と補填可能年数
| 年金月額(夫婦合算) | 月間不足額(生活費23万円) | 残高800万円で持つ年数 | 残高1,200万円で持つ年数 |
|---|---|---|---|
| 15万円 | 8万円 | 8.3年(73歳) | 12.5年(78歳) |
| 18万円 | 5万円 | 13.3年(78歳) | 20年(85歳) |
| 20万円 | 3万円 | 22.2年(87歳) | 33.3年(98歳) |
| 23万円 | 0円 | 不足なし | 不足なし |
当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金2,000万円・貯蓄なし・年金月額18万円のケースでは、90歳まで約520万円の不足が生じる。
- 5ステップで自分の不足額を正確に算出できる
- 退職金2,000万円・年金月額18万円・貯蓄なしだと90歳まで約520万円不足
不足額を埋める3つの方法は?
不足額が判明したら、次は具体的な対策だ。3つの方法がある。
方法1: 60〜65歳の再雇用で収入を確保する 月10万円の再雇用収入を5年間得れば600万円。退職金の取り崩しを抑えられるため、65歳時点の残高が600万円増える。
Bさん(60歳・元商社勤務・退職金1,800万円)は、再雇用で月12万円を5年間得た。退職金の取り崩しを月13万円に抑えた結果、65歳時点の残高は1,800万 − 780万 = 1,020万円を確保できた。
方法2: 年金の繰下げ受給で月額を増やす 65歳から70歳まで5年間繰り下げると、年金額が42%増加する。月15万円の年金が月21.3万円になる。生活費23万円との差額は月1.7万円まで縮まる。
ただし繰下げ期間中は年金が受け取れないため、その間の生活費を退職金で賄う必要がある。
方法3: 50代からの積立で不足額を埋める iDeCo(月2.3万円)を10年間積み立てれば元本だけで276万円。運用益を含めると300〜350万円が見込める。全額所得控除のため、積立期間中の手取り最大化にもつながる。
- 再雇用月10万円×5年で65歳時点の残高を600万円上積みできる
- 年金繰下げ5年で42%増額。月15万円→月21.3万円
退職金が少ない人が今からできることは?
退職まで5年以上ある人は、まだ打ち手がある。
- iDeCoの満額拠出: 会社員なら月2.3万円。5年で138万円の元本+運用益。全額所得控除
- 積立NISAの活用: 年間120万円まで非課税で運用可能
- 固定費の削減: 退職後の生活費を月2〜3万円下げれば、30年間で720〜1,080万円の差になる
- 住宅ローンの完済計画: 60歳時点でローンが残っていると、退職金の取り崩しが加速する
退職まで残り3年以内の人は、退職後の再雇用条件の確認と年金見込額の試算を最優先で行うべきだ。
- iDeCo月2.3万円×5年で138万円+運用益を非課税で積立
- 固定費を月3万円削減すれば30年で1,080万円の差
まとめ:不足額の計算が老後対策の第一歩
「退職金があるから大丈夫」は、数字で検証しないと危険な思い込みだ。
5ステップの計算で自分の不足額を把握し、3つの対策から実行可能なものを選ぶ。それが老後の資産防衛の第一歩になる。
- 退職金の手取りと60〜65歳の生活費を把握する
- 65歳時点の残高と年金不足額から「何歳まで持つか」を計算する
- 不足があれば再雇用・繰下げ・積立のいずれかで埋める