「うちの税理士が3.0倍でいいと言った」。それだけで安心している社長は多い。だが否認された事例を見ると、3.0倍でも業種によっては「高すぎた」ケースがある。
否認パターン1: 功績倍率が同業平均を超過
最も多い否認パターンだ。
事例: 製造業の社長が功績倍率3.5で退職金1億2,000万円を支給。税務調査で同業類似法人の平均功績倍率が2.3と判明。3.5と2.3の差額分に相当する約4,100万円が過大認定され、損金不算入に。
ポイントは「3.0以下なら安全」ではないこと。税務署は業種・規模別の統計データを持っている。製造業の中小企業では平均2.0〜2.5というデータもある。
- 否認基準は「3.0超」ではなく「同業平均超」
- 業種によっては2.5でも否認リスクがある
否認パターン2: 退職直前の報酬急増
功績倍率法の「最終月額報酬」を操作するパターン。
事例: 退職2年前に月額報酬を50万円から150万円に引上げ。功績倍率3.0で退職金を算定し9,000万円を支給。税務署は「最終月額報酬150万円は不相当」と判断し、引上げ前の50万円ベース(3,000万円)を適正額として6,000万円を過大認定。
退職直前の急激な報酬引上げは、税務署に「退職金のための操作」と見なされる。報酬変更は業績連動の合理的理由がなければ否認される。
否認パターン3: 分掌変更後の実質的な経営関与
代表取締役から平取締役に「退任」して退職金を受け取りつつ、実態は経営を続けるケース。
事例: 代表取締役が取締役相談役に変更し、退職金4,000万円を支給。しかし変更後も銀行交渉・取引先対応・人事決定を行っていた。税務署は「実質的に退職していない」と判断し、退職金全額の損金算入を否認。
分掌変更で退職金を支給する場合は、変更後の経営関与を明確に限定し、その実態を証拠として残す必要がある。
- 分掌変更退職金は「実質的に退職しているか」が焦点
- 変更後の役割限定と実態の証拠が必須
事例4: 議事録・退職金規程の不備
事例: 退職金3,000万円を支給したが、株主総会議事録に算定根拠の記載がなく、退職金規程も未整備。税務調査で「決議の事実が確認できない」として損金算入を否認。
金額が適正でも、手続きの不備で否認されるケースは少なくない。
事例5: 役員退職金と賞与の混同
事例: 退職金として5,000万円を支給したが、退職の事実がない(引き続き同じ役職に就任)。税務署は全額を「役員賞与」と認定し、損金不算入に。さらに個人側でも給与所得として追加課税。
退職金は「退職の事実」が大前提だ。形式的な退任と再就任では退職金とは認められない。
- 金額が適正でも手続き不備で否認される
- 退職の事実がなければ全額が役員賞与として課税
否認されないための4つの対策
- 同業類似法人のデータを確認する: 功績倍率の相場は業種で異なる。TKC加盟税理士等に確認
- 報酬は退職前3〜5年かけて段階的に調整する: 急激な変更は避ける
- 議事録に算定根拠を明記する: 功績倍率法の計算過程を記載
- 退職の実態を確保する: 登記変更、名刺変更、経営関与の限定を書面化
まとめ
否認事例に共通するのは「形式と実態の乖離」だ。功績倍率を操作する、報酬を急増させる、退職せずに退職金を受け取る。いずれも税務署は見抜いている。
対策は「正しい計算式で、正しい手続きを踏む」こと。地味だが、これが手取りを最大化する最も確実な方法だ。