加給年金の申請を忘れたまま5年が過ぎたEさんの損失額は約200万円。年39.7万円が上乗せされるはずだった年金を、「知らなかった」という理由だけで受け取れなかった。

加給年金は条件を満たせば自動的に加算されるものではない。自分で申請しなければ1円ももらえない。

加給年金とは何ですか?

加給年金とは、厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を維持している年下の配偶者や子がいれば年金に上乗せされる制度をいう。

いわば年金版の「家族手当」だ。配偶者が65歳になるまでの期間限定で支給される。

加給年金の対象と金額(2026年度)

対象加給年金額(年額)特別加算(年額)合計
配偶者(65歳未満)39.7万円最大17.1万円最大56.8万円
1人目・2人目の子各22.8万円−各22.8万円
3人目以降の子各7.6万円−各7.6万円

配偶者の特別加算は受給者の生年月日によって金額が変わる。昭和18年4月2日以後生まれの場合、特別加算は年17.1万円で合計56.8万円になる。

ここまでで分かったこと
  • 加給年金は厚生年金20年以上+年下の配偶者がいる場合に支給
  • 配偶者分は年39.7万円+特別加算で最大年56.8万円

加給年金をもらえる条件は何ですか?

加給年金をもらうには4つの条件すべてを満たす必要がある。1つでも欠けると支給されない。

条件1: 厚生年金の加入期間が20年以上であること

これが最も重要な条件だ。厚生年金の被保険者期間が通算で240月(20年)以上必要。共済組合の加入期間も通算できる。

条件2: 65歳に達していること(または特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢に達していること)

原則として65歳から支給される。ただし、特別支給の老齢厚生年金の受給権がある人は、定額部分の支給開始年齢から受給できる場合がある。

条件3: 生計を維持している配偶者または子がいること

「生計維持」の基準は、配偶者の年収が850万円未満(所得655.5万円未満)であること。同居が原則だが、別居でも仕送りなどで生計維持関係が認められれば対象になる。

条件4: 配偶者が65歳未満であること(子は18歳到達年度末まで)

配偶者が65歳になると加給年金は終了する。その後は配偶者自身に「振替加算」が支給される。

加給年金の4条件チェックリスト

条件基準確認方法
厚生年金20年以上被保険者期間240月以上ねんきん定期便・ねんきんネット
65歳到達原則65歳生年月日で確認
生計維持の配偶者・子年収850万円未満源泉徴収票で確認
配偶者65歳未満年齢差がある配偶者の生年月日で確認
ここまでで分かったこと
  • 4条件すべてを満たす必要がある。1つでも欠けると支給されない
  • 最重要条件は厚生年金20年以上。ねんきん定期便で加入月数を確認

加給年金を受け取れる期間と総額はいくらですか?

加給年金の総額は配偶者との年齢差で決まる。年齢差が大きいほど総受給額が増える。

Aさん(65歳・男性・厚生年金25年・妻60歳・パート年収100万円)のケースで計算する。

  • 加給年金: 年39.7万円 + 特別加算17.1万円 = 年56.8万円
  • 受給期間: Aさん65歳~妻が65歳になるまでの5年間
  • 総額: 56.8万円 × 5年 = 約284万円

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、配偶者との年齢差別の総受給額は以下のとおりだ。

配偶者との年齢差別・加給年金の総受給額

年齢差受給期間総額(特別加算含む)
1歳差1年約57万円
3歳差3年約170万円
5歳差5年約284万円
7歳差7年約398万円
10歳差10年約568万円

10歳差なら総額約568万円。これだけの金額を申請漏れで失うのは、退職金の運用損失以上のインパクトがある。

ここまでで分かったこと
  • 加給年金の総額は配偶者との年齢差で決まる。5歳差で約284万円
  • 10歳差なら約568万円。申請漏れの損失は甚大

加給年金の申請方法はどうすればよいですか?

加給年金の申請は、老齢厚生年金の裁定請求と同時に行うのが基本だ。手順は以下の4ステップ。

ステップ1: 必要書類を準備する

  • 年金請求書(様式第101号)
  • 戸籍謄本(受給権発生日以降のもの)
  • 世帯全員の住民票
  • 配偶者の所得証明書(非課税証明書など)
  • 受給者の年金手帳・基礎年金番号通知書

ステップ2: 年金請求書に配偶者情報を記入する

年金請求書の「加給年金額に関する生計維持の申し立て」欄に配偶者の氏名・生年月日・年収を記入する。ここを空欄にすると加給年金が支給されない。

ステップ3: 年金事務所に提出する

最寄りの年金事務所または街角の年金相談センターに提出。郵送でも可能だが、書類不備を防ぐために窓口での提出を推奨する。

ステップ4: 支給決定の通知を確認する

提出から約1〜2ヶ月で「年金証書・年金決定通知書」が届く。加給年金が加算されていることを必ず確認する。

Bさん(63歳・退職予定65歳)のスケジュール例:

加給年金の申請スケジュール(65歳受給開始の場合)

時期やること
64歳6ヶ月頃年金請求書が届く(誕生月の3ヶ月前に届く)
64歳9ヶ月必要書類を収集(戸籍謄本・所得証明書など)
65歳の誕生日以降年金事務所に提出
提出から1〜2ヶ月後年金証書で加給年金加算を確認
ここまでで分かったこと
  • 年金請求書の「加給年金額に関する生計維持の申し立て」欄を空欄にしない
  • 65歳の誕生日以降に年金事務所に提出。郵送より窓口が確実

加給年金がもらえなくなるケースは何ですか?

加給年金が支給停止・失権になるケースは5つある。事前に把握しておかないと、予定していた家計プランが崩れる。

ケース1: 配偶者が65歳になった

最も一般的な終了パターン。配偶者が65歳に達すると加給年金は自動的に打ち切られ、配偶者自身に振替加算が開始される。

ケース2: 配偶者の厚生年金が20年以上になった

配偶者が厚生年金に20年以上加入し、老齢厚生年金または障害年金を受給し始めると、加給年金は支給停止になる。共働きで配偶者もフルタイム勤務していた場合に該当しやすい。

ケース3: 離婚した

配偶者との婚姻関係が解消されると加給年金の受給権を失う。離婚後の年金分割とは別の問題だ。

ケース4: 配偶者の年収が850万円以上になった

生計維持の要件を満たさなくなると支給停止。ただし、一時的な所得増(退職金の受取年など)は考慮される場合がある。

ケース5: 年金の繰上げ受給をした場合の注意点

繰上げ受給しても加給年金の支給開始は原則65歳から。60歳で繰上げしても加給年金は65歳まで待つ必要がある。繰上げで年金額が減額された上に、65歳まで加給年金も受け取れない「二重のデメリット」が生じる。

加給年金の支給停止・失権パターン

ケース原因復活の可否
配偶者65歳到達年齢到達不可(振替加算に移行)
配偶者の厚生年金20年以上配偶者の年金受給開始不可
離婚婚姻関係解消不可
配偶者年収850万超所得超過年収が下がれば復活可
繰上げ受給65歳前に受給開始65歳から加給年金は支給
ここまでで分かったこと
  • 配偶者の厚生年金20年以上で支給停止。共働き世帯は要確認
  • 繰上げ受給しても加給年金は65歳まで出ない。二重のデメリット

加給年金を手取り最大化に活かすにはどうすればよいですか?

加給年金を最大限に活用するには、年金の繰下げ受給との組み合わせに注意が必要だ。

老齢厚生年金を繰下げると加給年金がもらえない

老齢厚生年金を66歳以降に繰下げると、繰下げ待機中は加給年金も支給されない。繰下げで増額される年金額と、失う加給年金の金額を比較する必要がある。

Cさん(65歳・厚生年金30年・老齢厚生年金月10万円・妻60歳)のケースで比較する。

パターン1: 65歳で受給開始(加給年金あり)

  • 老齢厚生年金: 月10万円 × 12ヶ月 × 5年 = 600万円
  • 加給年金: 年56.8万円 × 5年 = 284万円
  • 5年間の合計: 884万円

パターン2: 70歳に繰下げ(加給年金なし)

  • 老齢厚生年金: 月14.2万円(42%増額)だが65〜70歳は受給なし
  • 加給年金: 65〜70歳の5年間は0円
  • 70歳以降の増額分で取り戻すまでに約12年(82歳)

配偶者との年齢差が大きい場合、繰下げによる増額より加給年金を確保する方が手取り最大化につながるケースが多い。

最適戦略: 老齢基礎年金だけ繰下げ、老齢厚生年金は65歳で受給

老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げができる。老齢厚生年金を65歳で受給すれば加給年金を受け取りつつ、老齢基礎年金を70歳まで繰下げて42%増額を狙える。

繰下げ戦略と加給年金の関係(妻5歳年下の場合)

戦略加給年金(5年分)年金増額判定
老齢厚生年金65歳受給+基礎年金繰下げ284万円(受取)基礎年金42%増最適
両方65歳受給284万円(受取)増額なし次善
両方70歳繰下げ0円(失う)両方42%増要比較
ここまでで分かったこと
  • 老齢厚生年金を繰下げると加給年金が止まる。繰下げは基礎年金だけにする
  • 妻が5歳以上年下なら、加給年金を確保する方が手取り最大化に有利

まとめ:加給年金は「知って申請する」だけで年39.7万円

加給年金は条件を満たしていても、申請しなければ受け取れない。年39.7万円、5年間で約284万円の上乗せを逃すのは、退職金の運用失敗に匹敵する損失だ。

  1. まずねんきん定期便で厚生年金の加入月数を確認(240月以上か)
  2. 配偶者の年齢と年収をチェック(65歳未満・年収850万円未満か)
  3. 年金請求書の加給年金欄を必ず記入して提出
  4. 老齢厚生年金の繰下げは慎重に判断(加給年金を失うリスク)

退職金の手取り最大化と同様に、年金の手取り最大化も「制度を知っているかどうか」で差がつく。加給年金の存在を知った今が、確認のタイミングだ。