年金月15万円、退職金2,000万円。月25万円の生活を続けると、退職金が底をつくのは83歳。平均寿命を考えれば、あと4〜5年分の生活費が足りない計算になる。

この「足りない問題」を解決する方法は3つしかない。支出を減らすか、年金を増やすか、退職金を運用して延命するか。どの選択がいくら得するのか、具体的にシミュレーションする。

年金と退職金を合わせると月いくら使える?

年金月15万円・退職金2,000万円の65歳が90歳まで生きる場合、月の使える額は約21.7万円だ。

計算式はシンプルだ。年金の25年分(15万円 × 12ヶ月 × 25年 = 4,500万円)に退職金2,000万円を足して6,500万円。これを25年(300ヶ月)で割ると、月約21.7万円になる。

ただし、この計算にはインフレ・医療費増加・介護費用が含まれていない。

年金額+退職金別・月の使える生活費(65〜90歳の25年間)

年金月額退職金月の使える額年金のみの場合との差
月12万円1,500万円約17.0万円+5.0万円
月15万円2,000万円約21.7万円+6.7万円
月18万円2,000万円約24.7万円+6.7万円
月15万円2,500万円約23.3万円+8.3万円
月20万円2,500万円約28.3万円+8.3万円

家計シミュレーションとは、年金収入と退職金の取り崩しを合算し、毎月の生活でいくら使えるかを算出する試算を指す。将来の支出パターンを「見える化」することで、取り崩しペースの最適化が可能になる。

ここまでで分かったこと
  • 年金月15万+退職金2,000万→月約21.7万円(90歳まで)
  • この金額にインフレ・医療費・介護費は含まれない

65歳からのリアルな家計モデルはどうなる?

65歳以上・無職夫婦世帯の平均支出は月約28万円。年金だけでは毎月約6万円の赤字が出る。

総務省「家計調査」令和5年のデータをもとに、65歳からのリアルな家計モデルを組んでみる。

65歳以上夫婦世帯の家計モデル(月額)

項目金額備考
食費7.2万円外食費含む
住居費1.6万円持ち家前提。賃貸なら8〜12万円
光熱・水道2.3万円
交通・通信3.0万円車維持費含む
保健医療1.6万円70歳以降は増加傾向
教養娯楽2.5万円旅行・趣味
その他(交際費等)5.0万円冠婚葬祭・孫関連
税・社会保険料3.1万円
合計約26.3万円

Aさん夫婦(夫65歳・元メーカー勤務・退職金2,100万円、妻63歳・パート)の場合:

  • 夫の年金: 月16万円(厚生年金)
  • 妻の年金: 月6.5万円(65歳から国民年金)
  • 夫婦合計: 月22.5万円(妻65歳以降)
  • 月の支出: 月26万円
  • 毎月の不足: 月3.5万円

退職金2,100万円を毎月3.5万円ずつ取り崩すと、50年分(115歳まで)持つ計算だ。しかし現実には突発的な医療費・介護費・住宅修繕費で年間50〜100万円の臨時支出が発生する。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、臨時支出を年間80万円と見込むと、退職金2,100万円は約88歳で底をつく。

ここまでで分かったこと
  • 65歳夫婦の平均支出は月約26万円。年金だけでは月3〜6万円の赤字
  • 臨時支出(医療・介護・修繕)を年80万円見込むと退職金の寿命が大きく縮む

退職金の取り崩しペースでどのくらい差が出る?

月の取り崩し額を5万円変えるだけで、退職金の寿命は10年以上変わる。

退職金2,000万円の取り崩しペース別シミュレーション

月の取り崩し額退職金が尽きる年齢90歳時の残高
月5万円98歳約500万円
月8万円86歳0円(86歳で枯渇)
月10万円82歳0円(82歳で枯渇)
月12万円79歳0円(79歳で枯渇)
月15万円76歳0円(76歳で枯渇)

Bさん(65歳・独身・退職金1,800万円・年金月14万円)は、月の生活費を22万円に設定。月8万円の取り崩しで退職金が尽きるのは84歳。日本人男性の平均寿命81.09歳はギリギリ超えるが、長生きリスクに対する余裕がない。

Bさんが月の生活費を20万円に抑えると、取り崩し額は月6万円。退職金は90歳まで持つ。たった月2万円の節約が、退職金の寿命を6年延ばす。

ここまでで分かったこと
  • 月の取り崩し額を2万円減らすだけで退職金の寿命が6年延びる
  • 「月いくらで暮らすか」の設計が老後の安心を決める

年金の繰下げ受給で生活はどう変わる?

年金を65歳から70歳に繰り下げると、月額が42%増える。月15万円の年金が月21.3万円になる。

繰下げ受給のメリットは、退職金の取り崩しペースを劇的に遅らせられること。

Aさん(年金月15万円・退職金2,000万円・生活費月25万円)のケースで比較する。

繰下げ受給による退職金寿命の変化

受給開始年齢年金月額月の取り崩し額退職金が尽きる年齢
65歳15.0万円10.0万円約82歳
66歳16.3万円8.7万円約84歳
68歳18.8万円6.2万円約87歳
70歳21.3万円3.7万円約95歳以上

ただし繰下げ期間中(65〜70歳)は年金がゼロになる。5年間の生活費を退職金から賄う必要がある。月25万円 × 60ヶ月 = 1,500万円。退職金2,000万円のうち75%を繰下げ期間で消費する計算だ。

繰下げ受給が有効なのは、65〜70歳の間に他の収入(再雇用・アルバイト等)がある場合、または退職金が2,500万円以上ある場合に限られる。

なお、年金の繰下げ受給で得をするのは81歳11ヶ月以上生きた場合。平均寿命を考えると多くの人にとって繰下げは合理的だが、健康状態との兼ね合いで判断する必要がある。

ここまでで分かったこと
  • 70歳まで繰下げで年金月額42%増。退職金の寿命が10年以上延びる
  • 繰下げ期間中の生活費を退職金か再雇用収入で賄えるかが判断基準

退職金が少ない場合はどう対策する?

退職金が1,000万円以下の場合、年金だけで生活費を賄える家計設計が必須になる。

厚生労働省「就労条件総合調査」令和5年によると、大卒・勤続20〜24年の退職金平均は1,026.7万円。全員が2,000万円もらえるわけではない。

Cさん(60歳・中小企業・退職金800万円・年金見込み月12万円)の対策は3つ。

  1. 65歳まで再雇用で働く: 月18万円の収入で5年間1,080万円の収入確保
  2. 年金を70歳まで繰り下げる: 月12万円 → 月17万円に増額
  3. 生活費を月18万円以内に設計: 住居費のかからない持ち家前提

この3つを実行すると、退職金800万円は70歳時点でまだ残っている。70歳以降は年金月17万円だけで月18万円の生活をほぼ賄えるため、退職金は予備費として温存できる。

ここまでで分かったこと
  • 退職金が少ない場合は再雇用+繰下げ+支出削減の3点セット
  • 「年金だけで生活費を賄える家計」を先に設計する

まとめ:年金+退職金の家計設計は「逆算」で決まる

老後の家計設計は「何歳まで生きるか」から逆算する。90歳まで生きるなら25年分の生活費を計算し、年金で足りない額を退職金で補う。

やるべきことは3つ。

  1. 90歳までの生活費を月単位で算出する(月25万円 × 300ヶ月 = 7,500万円)
  2. 年金総額を計算する(月15万円 × 300ヶ月 = 4,500万円)
  3. 不足額を退職金+運用で賄えるか確認する(不足3,000万円 vs 退職金2,000万円 → 1,000万円不足)

不足が判明したら、繰下げ受給・支出削減・60〜65歳の就労で埋める。「なんとかなるだろう」ではなく、数字で確認することが老後の手取りを最大化する第一歩だ。