退職金2,000万円のうち500万円を金に投資していたら、20年後にいくらになっていたか。2005年に金1gは約1,500円。2025年には約1万3,000円。500万円が約4,300万円になった計算だ。

一方で2012年に500万円分の金を買っていたら、2015年には約380万円まで下落。120万円の含み損を3年間抱え続けたことになる。金投資はリターンも大きいが、振れ幅も大きい。

金が過去20年で4倍になった理由は何か?

金が長期で上昇した理由は3つある。金の本質を理解すれば「今後も上がるか」の判断材料になる。

金(ゴールド)投資とは、実物資産である金地金や金連動型金融商品を購入し、価格上昇益やインフレヘッジ効果を得る投資手法のことだ。

理由1: 世界的なインフレと通貨の価値低下。2005年から2025年の20年間で、米ドルの購買力は約35%低下した。紙幣はいくらでも刷れるが、金の総量は有限だ。通貨の価値が下がれば、相対的に金の価値は上がる。

理由2: 中央銀行の金購入。中国・ロシア・インドなどの中央銀行が外貨準備として大量に金を買い増している。2022年以降、中央銀行の金購入量は年間1,000トンを超え、過去最高水準だ。

理由3: 地政学リスクの高まり。米中対立、ロシア・ウクライナ紛争、中東情勢の緊迫化。「有事の金」と呼ばれるように、世界の不確実性が高まると金に資金が流れる。

金価格の推移(円建て・1gあたり)

年金価格(1g)対2005年比
2005年約1,500円—
2010年約3,500円2.3倍
2013年約4,500円3.0倍
2015年約4,300円2.9倍(一時下落)
2020年約6,500円4.3倍
2025年約13,000円8.7倍
ここまでで分かったこと
  • 金の上昇理由は通貨価値の低下・中央銀行の買い・地政学リスクの3つ
  • 20年で8.7倍だが、途中で30%以上下落した局面もある

金投資の最大の弱点は何か?

金には株式や債券にはない「致命的な弱点」が3つある。退職金で金に投資する前に、必ず理解しておくべきだ。

弱点1: 配当・利息がゼロ。株式には配当、債券には利息がある。金にはどちらもない。保有しているだけでは1円も生まない。退職金を金に全額投入した場合、生活費は金を売却して捻出するしかない。

弱点2: 保管コストがかかる。金地金を自宅に保管するリスクは盗難・火災。貸金庫に預ければ年1〜3万円のコスト。純金積立なら年会費+保管料で年0.5〜1.5%がかかる。金ETFでも信託報酬が年0.2〜0.4%発生する。

弱点3: 売却時の税金が重い(金地金の場合)。金地金・金貨の売却益は総合課税の譲渡所得になる。退職金運用で他の所得がある場合、最大55%(所得税45%+住民税10%)の税率が適用される可能性がある。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金2,000万円のうち500万円で金地金を購入し、10年後に1,000万円で売却した場合の手取りは以下のとおりだ。

金地金の売却時税金シミュレーション(保有10年・利益500万円)

項目金額備考
売却額1,000万円購入時の2倍
購入額500万円—
売却益500万円—
長期譲渡所得の課税対象225万円(500万円−50万円)×1/2
税金(税率30%の場合)約67.5万円所得税+住民税
手取り約932.5万円—

金ETF(上場投資信託)なら申告分離課税で一律20.315%。同じ利益500万円でも税金は約101.6万円。金地金の方が税制上有利になるケースもあるが、所得が多い人は金ETFの方が有利だ。

ここまでで分かったこと
  • 金は配当ゼロ・保管コストあり・売却時課税の3重負担
  • 金地金は総合課税、金ETFは分離課税。所得水準で有利不利が変わる

金投資の方法はどれを選ぶべきか?

退職金で金に投資する方法は4つある。それぞれのメリット・デメリットを比較する。

金投資4つの方法の比較

方法最低投資額年間コスト流動性課税方式
金地金(バー)約130万円〜保管料1〜3万円売却に数日総合課税
金貨約15万円〜保管料1〜3万円売却に数日総合課税
純金積立月1,000円〜年0.5〜1.5%数日で換金総合課税
金ETF約1.3万円〜年0.2〜0.4%即日売却可申告分離課税20.315%

退職金での金投資なら、金ETFが最も合理的だ。理由は3つ。コストが最安・流動性が高い・税率が一律20.315%で予測しやすい。

手取りを最大化するなら、保管コストが年0.2%台の金ETFを選び、NISA口座で購入すれば売却益も非課税になる。ただしNISAで購入できる金ETFは国内上場のものに限られる。

ここまでで分かったこと
  • 退職金での金投資は金ETFが最も合理的(低コスト・高流動性・分離課税)
  • NISA口座で金ETFを買えば売却益が非課税になる

退職金のうち何割を金に入れるべきか?

金への配分比率は「10〜20%が上限」が定説だ。

金は配当がなく、価格変動も大きい。全額を金に入れると、生活費を捻出するために金価格が低い時期に売却を強いられるリスクがある。

Aさん(62歳・製造業退職・退職金2,000万円)は、退職金の15%にあたる300万円を金ETFに投入した。残りは定期預金600万円、個人向け国債400万円、全世界株式インデックス700万円に分散。5年後、金ETFは420万円に成長(+40%)し、ポートフォリオ全体では約2,350万円になった。

一方、Bさん(60歳・退職金1,800万円)は「金は安全資産」と考え、全額を金地金で購入した。2年後に自宅のリフォームで500万円が必要になったが、金価格が購入時より15%下落中。売りたくない時期に売却を強いられ、75万円の損失が確定した。

退職金2,000万円の金配分シミュレーション

金の配分金額5年後(金+40%の場合)5年後(金−30%の場合)
10%200万円280万円140万円
20%400万円560万円280万円
50%1,000万円1,400万円700万円
100%2,000万円2,800万円1,400万円

金が30%下落した場合、配分10%なら損失は60万円。配分100%なら600万円。退職金の場合、取り返しのきかない損失は避けるべきだ。

ここまでで分かったこと
  • 金への配分は退職金の10〜20%が上限
  • 全額を金に入れると、現金が必要な時に不利な価格で売却を強いられる

金は「これからも上がる」のか?

過去20年の上昇を見て「これからも上がる」と考えるのは危険だ。

1980年に金は1g=6,495円の高値をつけた。その後20年間、金価格は下落・横ばいを続け、2000年には1g=1,014円まで下がった。20年で84%の下落だ。

この20年間に退職金で金を買った人は、全員が損をした。「金は安全資産」「金は必ず上がる」は、ここ20年だけを見た結論にすぎない。

金投資で重要なのは「値上がりを期待する」ことではなく、「株や債券と異なる動きをする」ことを利用した分散効果だ。株式が暴落するとき、金は上昇する傾向がある(逆相関)。この性質を使って、ポートフォリオ全体の振れ幅を小さくするのが、金投資の本来の目的だ。

ここまでで分かったこと
  • 1980〜2000年の20年間は金価格が84%下落。「必ず上がる」は幻想
  • 金投資の目的は値上がり期待ではなく、ポートフォリオの分散効果

まとめ

退職金で金に投資する際の判断基準は3つだ。

  1. 配分は10〜20%が上限。全額を金に入れない
  2. 金ETFを選ぶ。コスト最安・流動性高・税率が予測しやすい
  3. 値上がり期待ではなく分散目的。株式と逆相関する性質を活用する

金は「守りの資産」だ。退職金の手取りを最大化するために攻めるなら低コストのインデックスファンド、守りの一部として金ETFを10〜20%組み入れる。これが退職金での金投資の最適解だ。