勤続30年で受け取る退職金の平均は約1,838万円。退職所得控除は1,500万円だから、課税されるのは338万円の半分=169万円。税額は約25万円で、手取りは約1,813万円だ。しかし、この25万円の税金すら「iDeCoの受取時期をずらす」だけで大幅に減らせる可能性がある。手取りを最大化してから運用に入る——この順番を間違えると、数十万円を失う。

勤続30年の退職金は平均いくら?

大卒・勤続30〜34年の退職金平均は約1,839万円。高卒では約1,226万円だ。

勤続年数・学歴別の退職金平均額

学歴勤続20〜24年勤続25〜29年勤続30〜34年勤続35年以上
大卒約1,027万円約1,458万円約1,839万円約2,048万円
高卒約716万円約965万円約1,226万円約1,604万円

勤続30年で退職するのは50代半ばが多い。定年の60歳まで残り5年ほどの早期退職か、役職定年を機にした転職が主な理由だ。定年退職の勤続35年以上と比べると約200万円少ないが、退職所得控除1,500万円という大きな武器がある。

ここまでで分かったこと
  • 大卒・勤続30年の退職金平均は約1,839万円
  • 退職所得控除1,500万円が最大の武器

退職所得控除1,500万円をどう活かす?

退職所得控除とは、退職金にかかる税金を計算する際に差し引ける非課税枠のことを指す。勤続30年なら1,500万円だ。

計算式は「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)」。勤続30年なら800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円となる。

勤続30年・退職金1,838万円の手取り計算

ステップ計算式金額
①退職所得控除800万円 + 70万円 ×(30年−20年)1,500万円
②課税退職所得(1,838万円 − 1,500万円)× 1/2169万円
③所得税169万円 × 5%約8.5万円
④復興特別所得税8.5万円 × 2.1%約0.2万円
⑤住民税169万円 × 10%約16.9万円
⑥税額合計③+④+⑤約25.6万円
⑦手取り1,838万円 − 25.6万円約1,812万円

退職金が1,500万円以下なら税金ゼロ。1,838万円の場合は338万円が控除をはみ出すが、1/2課税のおかげで課税対象は169万円。税率は5%の最低ランクに収まる。退職金はあらゆる所得のなかで最も優遇されている。

ここまでで分かったこと
  • 勤続30年の退職所得控除は1,500万円
  • 退職金1,838万円の手取りは約1,812万円(税額約26万円)

iDeCoの控除枠を使って手取りをさらに増やすには?

iDeCoの一時金受取と退職金の受取年を19年以上あけると、それぞれの退職所得控除を「別々に」適用できる。

iDeCoを一時金で受け取る場合も退職所得として扱われ、退職所得控除が適用される。問題は退職金と同年または近い年に受け取ると、控除枠が調整(重複排除)される点だ。

iDeCo受取タイミングと控除の関係

受取パターン退職金の控除iDeCoの控除合計控除額
同年受取合算調整合算調整重複部分が差し引かれる
退職金→iDeCo(5年以内)1,500万円調整ありiDeCo側が減額
iDeCo→退職金(19年超)1,500万円満額適用両方フルに使える

具体的にはiDeCoを60歳で一時金として受け取り、退職金を勤続30年の区切りで受け取る場合、両者の受取年の間隔が19年を超えていれば、それぞれの退職所得控除がフルに適用される。

Aさん(55歳・勤続30年・退職金1,800万円・iDeCo加入15年・残高600万円)のケースを見よう。Aさんは55歳で早期退職し退職金を受取。iDeCoは60歳で一時金受取を予定している。退職金とiDeCoの受取間隔は5年だが、iDeCoを「先に」受け取っていないため、iDeCo側の控除が調整される。Aさんは退職金の手取り約1,775万円にiDeCoの手取り約540万円を加え、合計約2,315万円を運用原資とした。

ここまでで分かったこと
  • iDeCoと退職金の受取間隔は19年以上が理想
  • 受取順序と時期で手取りが数十万円変わる

手取り約1,800万円をどう配分する?

生活防衛資金600万円+安全資産200万円+NISA1,000万円の「3分割モデル」が基本だ。

勤続30年・退職金手取り約1,800万円の配分モデル

資金区分金額配分比率運用先期待利回り
生活防衛資金600万円33%定期預金0.3%
安全運用枠200万円11%個人向け国債(変動10年)0.72%
NISA運用枠1,000万円56%全世界株式インデックス3〜5%
合計約1,800万円100%—約2.7%(加重平均)

勤続30年での退職は55歳前後が多い。年金受給開始の65歳まで10年あるため、生活防衛資金は厚めに600万円(月25万円 × 24ヶ月)を確保する。再就職する場合は400万円に減らし、その分をNISAに上乗せできる。

NISA1,000万円は年間360万円ずつ3年で投入。eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)1本でシンプルに運用する。

ここまでで分かったこと
  • 勤続30年退職は生活防衛600万+安全200万+NISA1,000万
  • 55歳退職なら年金まで10年。生活防衛資金は厚めに

20年運用するといくらになる?

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、NISA1,000万円を全世界株式インデックスで年利3%・20年運用した場合、約1,806万円に成長する。運用益806万円は全額非課税だ。

退職金手取り1,800万円の20年後シミュレーション

シナリオ安全資産800万円(20年後)NISA1,000万円(20年後)合計運用益
全額定期預金約1,854万円—約1,854万円約54万円
3分割モデル(年利2%)約817万円約1,486万円約2,303万円約503万円
3分割モデル(年利3%)約817万円約1,806万円約2,623万円約823万円
3分割モデル(年利5%)約817万円約2,653万円約3,470万円約1,670万円

年利3%のケースで見ると、20年後の資産総額は約2,623万円。全額定期預金との差は約769万円。この差額は「運用するかしないか」の判断だけで生まれる。55歳で退職し75歳時点で約2,600万円。そこから月5万円ずつ取り崩しても95歳まで持つ計算だ。

ここまでで分かったこと
  • 3分割モデル(年利3%)で20年後に約2,623万円
  • 全額預金との差は約769万円。NISAなら非課税

勤続30年でやってはいけない運用ミスは?

勤続30年の50代は「退職金で住宅ローンを一括返済する」という判断を安易にやりがちだ。

勤続30年の退職金運用でやりがちなミス

ミス損失の目安正しい判断基準
住宅ローン一括返済に全額投入運用機会の喪失(200〜500万円)ローン金利1%以下なら繰上返済より運用が有利
退職記念の高額消費(車・旅行)200〜500万円の浪費消費は生活防衛資金の範囲内に抑える
銀行の退職金運用プランに即決100〜300万円(高コスト投信)1ヶ月の検討期間を取る

住宅ローンの残債が500万円・金利0.7%の場合、一括返済で節約できる利息は約18万円(残期間5年)。同じ500万円をNISAで年利3%・5年運用すると約80万円の利益が出る。金利1%以下のローンなら、一括返済より運用のほうが合理的だ。

Bさん(56歳・勤続31年・退職金1,900万円・住宅ローン残債400万円)は一括返済の衝動を抑え、ローンは月々返済を継続。退職金を配分モデルどおりに運用し、5年後にローン完済。その間にNISAの運用益で約150万円を得た。

ここまでで分かったこと
  • 住宅ローン金利1%以下なら一括返済より運用が有利
  • 退職金受取後1ヶ月は何もしないのが鉄則

まとめ:勤続30年は「控除の活用→手取り確定→堅実運用」の3ステップ

勤続30年の退職金運用は、3つのステップで進める。

  1. 退職所得控除1,500万円を活用し、iDeCoとの受取順序を最適化して手取りを最大化する
  2. 生活防衛資金600万円を定期預金、安全資産200万円を個人向け国債に確保する
  3. 残り1,000万円をNISAで全世界株式インデックスに投入する(3年計画)

勤続30年の退職金平均1,838万円は、手取りを最大化し堅実に運用すれば、20年後に約2,600万円に成長する。55歳で退職しても75歳時点で十分な資産が残り、95歳まで月5万円の取り崩しが可能だ。退職所得控除1,500万円という武器を使い倒すことが、老後の安心への第一歩になる。