退職金2,000万円を受け取ったのに、手取りが1,880万円だった。消えた120万円の正体は所得税と住民税だ。勤続年数を1年数え間違えただけで、税額が数万〜数十万円変わることもある。

退職金の手取り計算は難しくない。控除→課税所得→税額の3ステップだけで、Excelを使わなくても正確に算出できる。

ステップ1: 退職所得控除額はいくらか?

退職所得控除額は勤続年数で決まる。20年以下と20年超で計算式が変わる。

退職所得控除とは、退職金にかかる税金を大幅に軽減するために設けられた非課税枠のこと。勤続年数が長いほど控除額が大きくなり、勤続38年以上なら退職金2,000万円は全額非課税になる。

計算式は以下の通り。

  • 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
  • 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

重要:勤続年数の端数は切り上げ。29年3ヶ月なら30年として計算する。この切り上げだけで控除額が70万円増えるケースがある。

勤続年数別・退職所得控除額

勤続年数計算式控除額
15年40万円 × 15年600万円
20年40万円 × 20年800万円
25年800万円 + 70万円 × 5年1,150万円
30年800万円 + 70万円 × 10年1,500万円
35年800万円 + 70万円 × 15年1,850万円
38年800万円 + 70万円 × 18年2,060万円
40年800万円 + 70万円 × 20年2,200万円

Aさん(60歳・製造業・勤続32年6ヶ月)の場合、勤続年数は33年(端数切り上げ)。控除額は800万円 + 70万円 ×(33 − 20)= 800万円 + 910万円 = 1,710万円だ。

ここまでで分かったこと
  • 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
  • 端数は切り上げ。29年3ヶ月は30年。切り上げで控除が70万円増える

ステップ2: 課税対象の退職所得はいくらか?

課税対象の退職所得 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2。この「1/2」が退職金最大の優遇措置だ。

退職所得とは、退職金から退職所得控除を引いた金額の半分のこと。この1/2課税により、退職金にかかる税率が実質的に半分になる。

先ほどのAさん(退職金2,200万円・控除額1,710万円)で計算する。

  • 課税対象 =(2,200万円 − 1,710万円)× 1/2 = 490万円 × 1/2 = 245万円

退職金2,200万円のうち、課税されるのはわずか245万円だ。残りの1,955万円は非課税。

注意点が2つある。

1つ目は、退職金が退職所得控除額以下なら課税対象はゼロ。税金はかからない。勤続38年で退職金2,000万円なら、控除額2,060万円 > 退職金2,000万円で、税額ゼロだ。

2つ目は、勤続5年以下の場合は1/2課税が適用されないケースがある(役員の場合は適用なし、一般社員の場合は300万円超の部分に適用なし)。

退職金額別・課税対象退職所得(勤続30年の場合)

退職金控除額差額課税対象(×1/2)
1,500万円1,500万円0円0円(非課税)
1,800万円1,500万円300万円150万円
2,000万円1,500万円500万円250万円
2,500万円1,500万円1,000万円500万円
3,000万円1,500万円1,500万円750万円
ここまでで分かったこと
  • 課税対象 =(退職金 − 控除額)× 1/2。この1/2が最大の優遇
  • 控除額 ≧ 退職金なら税金ゼロ。勤続38年超で2,000万円は非課税

ステップ3: 所得税と住民税はいくらか?

退職所得にかかる税金は所得税(+復興特別所得税)と住民税の2つ。所得税は累進課税、住民税は一律10%だ。

所得税は課税対象額に応じた税率を適用する。退職所得は他の所得と合算しない「分離課税」のため、給与所得とは別に計算する。

所得税の速算表(退職所得に適用)

課税対象額税率控除額
〜195万円5%0円
195万〜330万円10%97,500円
330万〜695万円20%427,500円
695万〜900万円23%636,000円
900万〜1,800万円33%1,536,000円

Aさん(課税対象245万円)の場合で計算する。

所得税

  • 245万円 × 10% − 97,500円 = 147,500円
  • 復興特別所得税:147,500円 × 2.1% = 3,097円
  • 所得税合計:150,597円

住民税

  • 245万円 × 10% = 245,000円

税額合計

  • 150,597円 + 245,000円 = 395,597円

手取り

  • 2,200万円 − 395,597円 = 約2,160万円

退職金2,200万円に対して税金は約40万円。税負担率はわずか1.8%だ。

ここまでで分かったこと
  • 所得税は速算表で計算。住民税は一律10%
  • 退職金2,200万円・勤続33年で税金は約40万円。税負担率1.8%

退職金額・勤続年数別の手取り早見表

ここまでの3ステップをまとめた早見表を掲載する。自分の退職金額と勤続年数の交差点を見れば、おおよその手取りがわかる。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、退職金の手取り率(手取り÷退職金)は勤続30年以上で95%を超え、勤続38年以上なら100%(非課税)になる。

退職金の手取り早見表(所得税+住民税控除後)

退職金勤続25年勤続30年勤続35年勤続38年
1,500万円約1,474万円1,500万円1,500万円1,500万円
2,000万円約1,915万円約1,975万円約1,993万円2,000万円
2,500万円約2,330万円約2,405万円約2,468万円約2,482万円
3,000万円約2,720万円約2,810万円約2,910万円約2,942万円

勤続25年・退職金2,000万円の場合、手取りは約1,915万円。約85万円が税金だ。勤続30年なら手取り約1,975万円で税金は約25万円。勤続年数5年の差で税金が60万円変わる。

ここまでで分かったこと
  • 勤続30年・退職金2,000万円 → 手取り約1,975万円
  • 勤続年数5年の差で税金が60万円変わるケースも

手取りを最大化する3つの方法とは?

退職金の手取りを最大化するには「勤続年数の端数切り上げ確認」「退職所得の受給に関する申告書の提出」「iDeCo5年ルールの活用」の3つが有効だ。

1つ目は勤続年数の端数確認。入社日が4月1日で退職日が3月31日なら、たとえば29年と364日でも切り上げて30年。控除額が70万円増え、税金が最大で約7万円減る。会社によっては退職日を1日ずらすことで勤続年数が1年増えるケースがある。

2つ目は「退職所得の受給に関する申告書」の提出。これを出さないと、退職金の20.42%が源泉徴収される。退職金2,000万円なら約408万円が天引きされ、確定申告で還付を受ける手間が発生する。必ず退職前に会社に提出する。

3つ目はiDeCoの5年ルール。退職金を一時金で受け取ってから5年以上あけてiDeCoを一時金で受け取ると、iDeCo分にも退職所得控除がフル適用される。

Bさん(58歳・IT企業・退職金2,400万円・勤続29年8ヶ月)は、勤続年数を30年(端数切り上げ)で計算。控除額は1,500万円。退職所得は(2,400万円−1,500万円)×1/2=450万円。税額は約57万円。手取りは約2,343万円だ。さらに65歳でiDeCoを一時金で受け取り、退職所得控除を再利用して約15万円の追加節税を実現した。

ここまでで分かったこと
  • 勤続年数の端数切り上げで控除額が70万円増える可能性あり
  • 「退職所得の受給に関する申告書」未提出だと20.42%が源泉徴収される

まとめ:退職金の手取り計算は3ステップで完結する

退職金の手取り計算は以下の3ステップで完結する。

  1. 控除額を出す:勤続20年超なら800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
  2. 課税対象を出す:(退職金 − 控除額)× 1/2
  3. 税額を出す:所得税は速算表、住民税は課税対象 × 10%

この3ステップを自分の数字で計算しておけば、退職金が振り込まれたときに「思ったより少ない」と慌てることはない。手取りが正確にわかれば、その後の運用計画も正確に立てられる。