退職金2,000万円を「攻め7:守り3」で運用した50代後半の男性が、暴落で失った金額は約560万円。回復まで8年かかり、65歳の年金受給開始時点でもまだマイナスだった。
50代の退職金運用は「どれだけ増やすか」ではなく「いつまでに使うか」から逆算する。この記事では、50代前半・後半それぞれの最適配分を数字で示す。
なぜ攻め7:守り3は50代に危険なのか?
攻め7:守り3は回復期間を確保できない50代にとって、最悪の配分だ。
リーマンショック(2008年)では全世界株式が約50%下落し、元の水準に戻るまで約5年かかった。コロナショック(2020年)は回復が早かったが、それでも3ヶ月で30%以上下落した。
退職金2,000万円を攻め7:守り3で配分すると、株式に1,400万円が入る。50%の暴落で700万円が消える計算だ。残り700万円が元に戻るには年7%のリターンで約10年。55歳で暴落に遭えば、回復は65歳。年金受給開始と同時にようやくプラスマイナスゼロだ。
暴落時の損失額と回復期間(退職金2,000万円の場合)
| 配分 | 株式投入額 | 50%暴落時の損失 | 回復期間(年7%想定) |
|---|---|---|---|
| 攻め7:守り3 | 1,400万円 | −700万円 | 約10年 |
| 攻め5:守り5 | 1,000万円 | −500万円 | 約10年 |
| 攻め3:守り7 | 600万円 | −300万円 | 約10年 |
攻め3:守り7なら、暴落でも損失は300万円に抑えられる。生活防衛資金と国債の1,400万円は無傷だ。
- 攻め7:守り3は暴落時に700万円が消える。回復まで10年
- 50代は「回復期間」が最大のリスク。配分で損失額を制御する
50代前半と後半で配分はどう変えるべき?
50代前半(50〜54歳)はリスク資産40%まで、50代後半(55〜59歳)は30%以下が目安だ。
違いの理由はシンプル。定年までの残り年数が違う。50歳なら定年まで10年あり、暴落からの回復期間を確保できる。57歳なら定年まで3年。暴落が来たら回復する前に取り崩しが始まる。
年齢別・退職金2,000万円の推奨配分
| 資産クラス | 50〜54歳 | 55〜59歳 |
|---|---|---|
| 生活防衛資金(定期預金) | 500万円(25%) | 600万円(30%) |
| 個人向け国債 | 400万円(20%) | 600万円(30%) |
| バランス型投信 | 600万円(30%) | 500万円(25%) |
| 全世界株式投信 | 400万円(20%) | 200万円(10%) |
| iDeCo | 100万円 | 100万円 |
| リスク資産比率 | 約40% | 約30% |
| 期待利回り(年) | 約2.8% | 約1.9% |
50代前半でも全世界株式の比率は20%に抑える。「若い頃の積立投資」と「退職金の一括運用」はまったく別物だ。積立なら暴落時に安く買えるが、一括投資は暴落の直撃を受ける。
- 50代前半はリスク資産40%、後半は30%が上限
- 一括投資は積立と違い、暴落の直撃を受ける前提で設計する
生活防衛資金はいくら確保すべきか?
生活費2年分を定期預金で確保する。50代・月の生活費25万円なら600万円が目安だ。
なぜ2年分か。転職・再就職の空白期間、病気やケガで働けない期間、年金受給までの空白期間。これらが重なった最悪ケースを想定すると、最低2年分が必要になる。
Aさん(53歳・製造業・退職金2,200万円)のケースを見よう。Aさんは早期退職優遇制度で53歳で退職。生活費は月28万円。生活防衛資金として672万円(月28万円×24ヶ月)を定期預金に確保し、残り1,528万円を国債500万円・バランス型投信700万円・全世界株式投信328万円に配分した。
退職から2年後、再就職先が決まるまでの8ヶ月間は生活防衛資金だけで乗り切れた。もし全額を投信に入れていたら、ちょうどこの時期に来た10%の調整局面で、生活費のために含み損で売却する羽目になっていた。
- 生活防衛資金 = 月の生活費 × 24ヶ月。これは絶対に運用に回さない
- 早期退職は空白期間が長い。生活防衛資金を多めに設定する
退職金運用を始める前にやるべき3つの準備とは?
運用を始める前に「退職金の手取り計算」「年金見込額の確認」「生活費の棚卸し」の3つを済ませる。
まず退職金の手取り計算。退職金は全額が手取りにはならない。退職所得控除を超える部分に所得税・住民税がかかる。
当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、勤続30年で退職金2,000万円の場合、退職所得控除は1,500万円。課税対象は(2,000万円−1,500万円)×1/2=250万円。所得税・住民税を合わせた税額は約25万円。手取りは約1,975万円になる。
退職所得控除とは、退職金にかかる税金を軽減するために設けられた非課税枠のこと。勤続年数が長いほど控除額が大きくなる。
勤続年数別・退職所得控除額
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | 退職金2,000万円の手取り概算 |
|---|---|---|
| 20年 | 800万円 | 約1,880万円 |
| 25年 | 1,150万円 | 約1,915万円 |
| 30年 | 1,500万円 | 約1,975万円 |
| 35年 | 1,850万円 | 約1,993万円 |
| 38年 | 2,060万円 | 2,000万円(非課税) |
次に年金見込額。ねんきんネットで確認できる。65歳からの年金額がわかれば、「年金だけでは足りない月額」が算出でき、退職金からいくら取り崩す必要があるかが見える。
最後に生活費の棚卸し。退職後は通勤費や交際費が減る一方、医療費や趣味の費用が増える。退職前の生活費の70〜80%が退職後の生活費の目安だ。
- 手取り計算→年金見込額→生活費の棚卸し。この順番で準備する
- 勤続38年以上なら退職金2,000万円は全額非課税
50代から始めるiDeCo活用のポイントは?
50代からのiDeCo加入は掛金の所得控除メリットを享受しつつ、受取タイミングの「5年ルール」を意識する。
50歳の会社員がiDeCoに月2.3万円を拠出した場合、年間の掛金は27.6万円。課税所得500万円なら、所得税20%+住民税10%で年間約8.3万円の手取り最大化効果がある。10年続ければ約83万円だ。
ただし50代からのiDeCoは受取方法に注意が必要だ。退職金を一時金で受け取ってから5年以上あけてiDeCoを一時金で受け取れば、退職所得控除を再度利用できる。逆に5年以内に両方受け取ると、控除が重複して課税額が増える。
Bさん(55歳・IT企業・退職金2,000万円)のケースでは、60歳で退職金を一時金で受取、65歳でiDeCoを一時金で受取という設計にした。iDeCoの10年分の運用益と退職所得控除の再利用で、手取りが約40万円増えた。
- 50代からのiDeCoは所得控除で年8万円超の手取り増
- 退職金とiDeCoの受取は5年以上あける。控除を2回使える
まとめ:50代の退職金運用で守るべき3つの原則
50代の退職金運用で最も大切なのは「増やすこと」ではなく「年金受給開始までに減らさないこと」だ。
やるべきことは3つ。
- 配分は守り6〜7:攻め3〜4。攻め7:守り3は絶対に避ける
- 生活防衛資金(生活費2年分)を定期預金で確保してから運用を始める
- 退職金とiDeCoの受取タイミングは5年ルールを使い、手取りを最大化する
退職金は人生で1回きりの資金だ。「65歳で年金を受け取り始めるとき、退職金がいくら残っているか」。この数字から逆算して配分を決めれば、50代の退職金運用は失敗しない。