60歳以降も働いて月収40万円を稼ぎながら年金月12万円を受給すると、年間12万円の年金がカットされる。5年続ければ60万円の年金が消える。しかも、カットされた年金は後から取り戻せない。
在職老齢年金の仕組みは「知らない人だけが損をする」制度だ。計算方法を理解して、手取りを最大化する働き方を設計する。
在職老齢年金の仕組みはどうなっている?
基本月額と総報酬月額相当額の合計が50万円を超えると、超過分の1/2が年金から支給停止される。
在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金に加入しながら働く人が老齢厚生年金を受給する場合に、収入に応じて年金の一部または全部が支給停止される制度を指す。
計算に使う2つの数字を整理する。
- 基本月額: 老齢厚生年金の月額(加給年金を除く)
- 総報酬月額相当額: 月収(標準報酬月額)+ 直近1年間の賞与÷12
この2つの合計が50万円(令和6年度基準額)を超えると、超過分の1/2が年金から差し引かれる。
計算式はシンプルだ。
支給停止額(月額)=(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 50万円)÷ 2
- 基本月額+総報酬月額相当額 > 50万円で年金カット発動
- カットされるのは超過分の1/2。全額停止ではない
具体的な計算例を見てみよう
年金月12万円・月収35万円・賞与年60万円のケースで計算する。
Aさん(63歳・再雇用・月収35万円・賞与年60万円・年金月12万円)
- 基本月額: 12万円
- 総報酬月額相当額: 35万円 +(60万円 ÷ 12)= 40万円
- 合計: 12万円 + 40万円 = 52万円
- 超過額: 52万円 − 50万円 = 2万円
- 支給停止額: 2万円 ÷ 2 = 1万円/月
Aさんの年金は月12万円から月11万円に減る。年間の年金カット額は12万円だ。
次に、もっと収入が多いBさんのケースを見る。
Bさん(66歳・会社役員・月収60万円・賞与年120万円・年金月14万円)
- 基本月額: 14万円
- 総報酬月額相当額: 60万円 +(120万円 ÷ 12)= 70万円
- 合計: 14万円 + 70万円 = 84万円
- 超過額: 84万円 − 50万円 = 34万円
- 支給停止額: 34万円 ÷ 2 = 17万円/月
支給停止額17万円は基本月額14万円を上回る。この場合、年金は全額支給停止になる。年間168万円の年金が消える。
在職老齢年金の計算例
| ケース | 年金月額 | 月収 | 賞与/年 | 合計 | カット額/月 | カット額/年 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Aさん(再雇用) | 12万円 | 35万円 | 60万円 | 52万円 | 1万円 | 12万円 |
| Bさん(役員) | 14万円 | 60万円 | 120万円 | 84万円 | 全額停止 | 168万円 |
| Cさん(パート) | 10万円 | 15万円 | 0円 | 25万円 | 0円 | 0円 |
Cさんのように合計が50万円以下なら年金カットはゼロだ。
- 支給停止額=(合計−50万円)÷2。超過分の半額がカット
- 年金月額を超えるカット額の場合は全額支給停止
月収別の年金カット額早見表
年金月額ごとに、月収でいくら年金がカットされるかを一覧にした。
在職老齢年金カット額早見表(月額、賞与なしの場合)
| 月収 | 年金月10万円 | 年金月12万円 | 年金月14万円 | 年金月16万円 |
|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 35万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0.5万円 |
| 38万円 | 0円 | 0円 | 1万円 | 2万円 |
| 40万円 | 0円 | 1万円 | 2万円 | 3万円 |
| 45万円 | 2.5万円 | 3.5万円 | 4.5万円 | 5.5万円 |
| 50万円 | 5万円 | 6万円 | 7万円 | 8万円 |
| 55万円 | 7.5万円 | 8.5万円 | 9.5万円 | 10.5万円 |
| 60万円 | 10万円(全額) | 11万円(全額) | 12万円(全額) | 13万円 |
この表は賞与なしの場合。賞与がある人は「月収」に「賞与÷12」を加算した金額で見ること。
当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、60歳以降に再雇用で月収35万円・年金月12万円のモデルケースでは、65歳までの5年間で累計約60万円の年金がカットされる。
- 月収40万円+年金12万円で年間12万円の年金カット
- 賞与がある人は「月収+賞与÷12」で判定すること
カットされた年金は後から取り戻せる?
取り戻せない。在職老齢年金で支給停止された年金は、永久に消滅する。
繰下げ受給のように「後でまとめてもらえる」仕組みではない。支給停止期間中の年金は、退職後も死亡後も一切支給されない。
さらに注意すべき点がある。在職老齢年金で支給停止された月は、繰下げ受給の増額計算の対象にもならない。
つまり「どうせカットされるなら繰下げて増やそう」と思っても、支給停止分は繰下げの増額対象外だ。年金月14万円のうち10万円が支給停止されている場合、繰下げで増額されるのは残りの4万円分だけになる。
在職老齢年金と繰下げ受給の関係
| 項目 | 支給される年金 | 支給停止分 |
|---|---|---|
| 月額 | 受給できる | 消滅 |
| 繰下げの増額対象 | 対象になる | 対象外 |
| 退職後の復活 | 通常通り支給 | 復活しない |
- 支給停止された年金は二度と戻らない
- 繰下げ受給の増額対象にもならない。「カット分を後で取り返す」は不可
年金カットを避ける方法はある?
合法的に年金カットを避ける方法は3つある。
方法1: 月収+年金を50万円以内に調整する
最もシンプルな方法。月収を下げるか、勤務時間を減らして厚生年金の標準報酬月額を下げる。ただし、年金カットを避けるために月収5万円を下げると、年間60万円の収入減。年金カット年間12万円を避けるために60万円の収入を失うのは本末転倒だ。
方法2: 厚生年金に加入しない働き方を選ぶ
個人事業主・業務委託・フリーランスは厚生年金に加入しないため、在職老齢年金の対象外。月収100万円でも年金はカットされない。ただし厚生年金の上乗せ(在職定時改定)も受けられない。
方法3: 年金の一部を繰下げ受給にする
老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げできる。在職老齢年金の対象は老齢厚生年金のみなので、老齢基礎年金を繰り下げて増額する戦略は有効。
Dさん(65歳・再雇用月収42万円・老齢厚生年金月10万円・老齢基礎年金月6.5万円)の場合:
- 老齢厚生年金: 月10万円(在職老齢年金で月1万円カット → 月9万円)
- 老齢基礎年金: 70歳まで繰下げ → 月6.5万円 × 1.42 = 月9.2万円
- 70歳以降の年金合計: 月19.2万円(通常受給なら月16.5万円)
- 年金カットを避けるために収入を下げるのは本末転倒になりやすい
- 老齢基礎年金だけ繰下げる「一部繰下げ」は有効な選択肢
まとめ:在職老齢年金は「知って対策する」が最適解
在職老齢年金の仕組みをまとめる。
- 基本月額 + 総報酬月額相当額 > 50万円で年金カット発動
- カット額 = 超過分の1/2。年金全額を超えるカットなら全額停止
- カットされた年金は取り戻せない。繰下げの増額対象にもならない
- カットを避けるより、トータルの手取りで判断すべき
年金がカットされても、月収40万円+年金11万円 = 月51万円の手取り。年金カット月1万円を恐れて退職するより、働き続ける方が経済的には合理的なケースが多い。
重要なのは「いくらカットされるか」を正確に把握し、手取り全体で最適な働き方を選ぶことだ。