退職日を1日ずらすだけで、手取りが約14万円変わる。勤続25年と26年では退職所得控除に70万円の差がつき、税額にして約14万円の違いが出る。この事実を知らずに退職日を決めている人が大半だ。

退職金の手取りは「いくらもらうか」だけでなく「いつ退職するか」で変わる。この記事では、退職日・受け取り年・退職月によって手取りがどう変動するかを具体的な数字で解説する。

退職日を1日ずらすと控除が70万円増えるのはなぜか?

退職所得控除の計算で勤続年数は1年未満を切り上げる。勤続25年1日は「26年」として計算されるため、控除が70万円増える。

退職所得控除とは、退職金にかかる税金を計算する際に差し引ける非課税枠のこと。勤続20年超の場合、「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」で計算する。

例えば、入社日が1999年4月1日の場合。2025年3月31日に退職すると勤続年数は25年365日だが、端数切り上げで26年。退職所得控除は800万円+70万円×6=1,220万円。しかし2025年3月30日に退職すると勤続年数は25年364日。切り上げで26年なので、実はこの場合は同額だ。

重要なのは、入社日の応当日をまたぐかどうかだ。1999年4月1日入社で2025年3月31日退職なら勤続26年(切り上げ)。2024年3月31日退職なら勤続25年。この1日の差で控除額が70万円変わる。

勤続年数と退職所得控除額の早見表

勤続年数退職所得控除額前年との差額
20年800万円—
25年1,150万円70万円
26年1,220万円70万円
30年1,500万円70万円
35年1,850万円70万円
38年2,060万円70万円
ここまでで分かったこと
  • 勤続年数の1年未満は切り上げ。入社応当日をまたぐと+70万円
  • 控除70万円増 = 課税対象35万円減 = 税額約7〜14万円減

年末退職と年度末退職で手取りはどう違うのか?

退職金そのものの税額は退職月に左右されないが、給与所得・住民税・社会保険料の観点で年末退職と年度末退職には差がある。

12月31日退職の場合、その年の給与所得は1〜12月の12ヶ月分で確定する。会社が年末調整を行うため、確定申告が不要になるケースが多い。翌年1月1日時点で無職なら、翌年度の住民税は退職後の低い所得で計算される。

3月31日退職の場合、1〜3月の給与は翌年の確定申告対象ではなく当年の所得になる。ただし退職後に再就職しない場合、4〜12月の収入がゼロのため年間の課税所得は低くなり、確定申告で所得税の還付を受けられる可能性がある。

Aさん(60歳・製造業・勤続38年・退職金2,000万円・月給40万円)のケースで比較する。

当メディアの試算(国税庁・厚労省統計に基づく決定論的計算)によると、勤続38年の退職所得控除は2,060万円。退職金2,000万円なら控除内に収まり、退職金への課税はゼロ。この場合、退職月が何月でも退職金の税額は変わらない。

差が出るのは給与所得だ。12月退職なら給与所得は年間480万円。3月退職なら年間120万円(1〜3月分)。3月退職のほうが年間給与が低いため、所得税・住民税の負担が軽い。ただし12月退職なら翌年1月〜3月の給与がないため、翌年の税負担が軽くなる。トータルでは大差がないが、住民税の支払いタイミングに注意が必要だ。

12月退職 vs 3月退職の比較(勤続38年・退職金2,000万円)

項目12月31日退職3月31日退職
退職金の課税0円(控除内)0円(控除内)
当年の給与所得480万円(12ヶ月)120万円(3ヶ月)
年末調整会社が実施確定申告が必要な場合あり
翌年度住民税退職年の所得で計算退職年の低い所得で計算
社会保険12月分まで会社負担3月分まで会社負担
ここまでで分かったこと
  • 退職金が控除内なら何月退職でも退職金の税額は同じ
  • 差が出るのは給与所得の税金と住民税の支払いタイミング

退職金が控除額を超える場合、タイミングでいくら変わるのか?

退職金が控除額を超える場合、勤続年数の端数で手取りが7万〜14万円変わる。

退職金2,500万円・勤続25年の場合と勤続26年の場合を比較する。

勤続25年:退職所得控除1,150万円。退職所得=(2,500万円−1,150万円)×1/2=675万円。所得税・復興税は約89万円。住民税は約67.5万円。合計約156.5万円。

勤続26年:退職所得控除1,220万円。退職所得=(2,500万円−1,220万円)×1/2=640万円。所得税・復興税は約82万円。住民税は約64万円。合計約146万円。

差額は約10.5万円。退職日を1日ずらすだけで手取りが10万円以上変わる。

勤続年数1年の差が手取りに与える影響(退職金2,500万円)

項目勤続25年勤続26年差額
退職所得控除1,150万円1,220万円+70万円
退職所得675万円640万円−35万円
所得税+復興税約89万円約82万円約−7万円
住民税約67.5万円約64万円約−3.5万円
手取り約2,343.5万円約2,354万円約+10.5万円
ここまでで分かったこと
  • 勤続年数1年の差で手取りが約10万円変わる(退職金2,500万円の場合)
  • 入社日の応当日を確認し、退職日を調整できるか人事に相談する

退職金を「一時金」と「年金」に分けるタイミングは?

退職金を一時金と年金に分けて受け取れる企業なら、受け取り方で税額が大きく変わる。一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除の対象になる。

退職金を一時金で受け取ると、退職所得控除が適用され課税は1/2。年金で受け取ると、公的年金等の雑所得として毎年課税される。

一般的に、退職所得控除の枠内に収まる金額は一時金で受け取り、超過分を年金で受け取るのが手取り最大化の基本戦略だ。

Bさん(60歳・金融機関退職・勤続35年・退職金2,500万円)のケースで比較する。退職所得控除は1,850万円。

パターンA:全額一時金。退職所得=(2,500万円−1,850万円)×1/2=325万円。税額は約49万円。

パターンB:1,850万円を一時金+650万円を10年年金。一時金部分は控除内で課税ゼロ。年金部分は年65万円が公的年金等の雑所得として課税。65歳以上の公的年金等控除110万円の枠内に公的年金と合算で収まるかがポイント。公的年金が年180万円なら合計245万円。控除110万円を引いて課税対象135万円。所得税・住民税は年約20万円。10年で約200万円。

この場合、パターンA(一時金)のほうが税額は低い。ただし年金受取のメリットは「計画的に使える」ことだ。一括で受け取ると使いすぎるリスクがある。

一時金 vs 年金受取の比較(退職金2,500万円・勤続35年)

項目全額一時金1,850万円一時金+650万年金
一時金の税額約49万円0円
年金の税額(10年合計)—約200万円
税額合計約49万円約200万円
手取り合計約2,451万円約2,300万円
使いすぎリスク高い低い
ここまでで分かったこと
  • 退職所得控除の枠内は一時金、超過分は年金が基本
  • ただし税額だけでなく「使いすぎリスク」も考慮して決める

退職金の受け取りで損しないためのチェックリストは?

退職前に確認すべき5項目を整理する。1つでも見落とすと、数万〜数十万円の損失になる。

1つ目は「退職所得の受給に関する申告書」の提出。これを会社に出さないと、退職金に20.42%が源泉徴収される。2,000万円なら約408万円が天引きされ、確定申告で取り戻す手間が発生する。

2つ目は勤続年数の端数確認。入社日と退職日から正確な勤続年数を計算し、1年繰り上がるタイミングを確認する。

3つ目はiDeCoとの兼ね合い。iDeCoの一時金受取と退職金の受取が同年だと、退職所得控除を合算で計算するため不利になる場合がある。5年以上ずらすと控除を二重に使える(5年ルール)。

4つ目は住民税の支払い準備。退職金から住民税が天引きされるが、翌年度の住民税は退職年の所得で計算される。退職後に収入がなくても住民税の請求が来る。

5つ目は健康保険の選択。退職後の健康保険は「任意継続」「国民健康保険」「家族の扶養」の3択。任意継続は退職から20日以内に手続きが必要。

退職金受け取り前のチェックリスト

確認項目期限見落とした場合の損失
退職所得の受給に関する申告書退職日まで約408万円が一時天引き(2,000万円の場合)
勤続年数の端数退職日決定前控除70万円 → 手取り約7〜14万円の差
iDeCoとの受取間隔退職日決定前控除の二重利用で数十万円の差
住民税の支払い準備退職前翌年に予想外の請求
健康保険の選択退職後20日以内任意継続の選択肢を失う
ここまでで分かったこと
  • 「退職所得の受給に関する申告書」の未提出で約408万円が一時天引き
  • 勤続年数の端数・iDeCoの5年ルール・住民税の3点は退職前に必ず確認

まとめ:退職金は「いつ辞めるか」で手取りが変わる

退職金の手取りを最大化するために確認すべきは3つだ。

  1. 入社日の応当日を確認し、勤続年数が1年繰り上がるタイミングで退職する
  2. 「退職所得の受給に関する申告書」を必ず会社に提出する
  3. iDeCoの受取タイミングと5年ルールを事前にシミュレーションする

退職日を1日ずらすだけで手取りが10万円以上変わる。退職届を出す前に、入社日をカレンダーで確認する。その5分の作業が、10万円以上の価値を持つ。